Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

日本私立大学協会附置私学高等教育研究所の公開研究会に出席してきました

high190です。
8月9日(木)に日本私立大学協会附置私学高等教育研究所主催の公開研究会に出席してきました。この研究会は平成12年度から既に53回の開催を数える研究会で、毎回テーマを設定し、高等教育の専門家による講演が行われています。今回の講師は、文部事務次官ユネスコ日本代表部特命全権大使などを歴任した佐藤禎一先生*1国際医療福祉大学 学事顧問・大学院教授)による「各国の高等教育の新潮流」というものでした。

今回もhigh190がポイントだと思った点をまとめてみました。若干、表現の違いなどがあるかも知れませんがあしからず。

1.この1年に起こった高等教育政策の変化

  • 大学のユニバーサル化
    • 大学の機能分化、高等教育の職業教育へのシフト
    • 日本と諸外国の高等教育政策を比較すると、どの社会も高齢化社会への対応を急いでおり、日本の大学は世界的にも高齢化社会を早期に迎える。高齢者は既に中等教育以降を終了しているため、初期投資なく教育できる存在であり、日本が生涯学習社会のロールモデルになるチャンスを秘めている。
  • 日本の問題点
    • 教育財政の公財政支出の少なさ
    • 日本は高等教育進学率がOECDと比較すると低い部類に入る

2.近年の諸外国による高等教育の動向

  • 臨時教育審議会での議論(1980年代)
    • 個性化・多様化
    • 生涯学習体系への移行
    • 社会の変化への対応
  • PISAとAHELOへの対応
    • PISAOECDによる国際的な生徒の学習到達度調査問題解決型の調査。ジェネリック・スキル(一般的・汎用的能力)を基準とする。
    • AHERO=高等教育における学習成果の評価であり、学部段階での国際比較を行う調査。フィージビリティ・スタディ(達成度の評価)を基準とする。なお、ヨーロッパでは、大学入学資格であるドイツのアビトゥアやフランスのバカロレアがあり、達成度の測定が容易である。
  • PISAとAHELOは、各国の教育のベンチマーク化のためにOECDが実施。なお、AHELOの結果は来年のユトレヒト会議で取りまとめられる予定。
    • 先進国の高等教育は、職業教育の充実と職業との接続がスタンダードであるが、日本は遅れを取っている。
    • これからは、大学教育の国際標準に晒されることになり、学部・単位の相互認証が必要になってくる。各大学が自ら評価指標を定め、自学の教育を世間に訴えていくことが必要。
  • 大学の市場化
    • 市場原理に基づく新たなガバナンスが求められている。また、地域の意向を取り入れた大学教育が必要。K12からK16への移行。
    • ヨーロッパでは、EQF(European Qualification Framework)*2という学校教育段階と職業の種類をリンクさせたフレームワークを整備している。

3.今年の諸外国による高等教育の動向

  • 各国は幼児教育から教育改革を進めている。自由と責任、透明性の確保。
  • どの国においても、職業教育に視点を置いた大学改革がグローバルに進展。
    • 中国では、現状では秋入学が主流だが、春入学も可能にするための制度整備が進められている。
    • 韓国では、教育の質の低い大学には政府が廃校を命ずるなど、厳しい措置を講じて高等教育の質確保に努めている。また、国際化への対応として各大学に留学生の管理能力を認証することも始めている。
    • フランスでは、バカロレア取得者はどの大学にも入学することができる。その反面学生の興味と専門分野のマッチングがうまくいっておらず、退学者が多く出ているため、中等教育段階での専門の振り分けが検討されている。
    • アメリカでは、ジョイント・ディグリー、ダブル・ディグリープログラムの実施校が増加している。また、日本からの留学生が減少している。原因は文部科学省で分析中だが、佐藤氏によれば、米国大学の学費が高額であることが主要因ではないかとのこと。
    • ドイツでは、二元式学修課程として、企業と大学が連携推進している。
    • EU全体では、1987年に始まった学生の流動化の促進を目指すエラスムス計画のさらなる推進を目指した動きが出ている。(EU域内留学者の比率を20%から50%にまで上げる)

佐藤先生のお話は、高等教育行政に長年携わってきた重みが感じられるものでした。私が講演を聞いて一番印象に残ったのは、「どの国においても、職業教育に視点を置いた大学改革がグローバルに進展している」という点です。諸外国も大学教育と職業の接続性を強固にすべく、様々な施策を講じていることは見過ごせない事実だと思います。
先般、8月9日(木)に開催された中央教育審議会の大学分科会(第109回)・大学教育部会(第21回)合同会議にて、「未来を創出する大学教育の構築に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜」(答申案)が発表されていますが、*3その中でも、世界的に学士課程教育の質保証が課題であるとの記述があります。このことからも分かるように、グローバル化の進展に伴う諸外国の大学改革に目を向けて、日本国内のみならず自学の教育内容を職員としても検証・検討していくあると感じました。
また、公開研究会の参加者に若い人が少なかったのも印象に残りました。確かに現業系の仕事をしている若手職員には若干なじみにくい内容かも知れませんが、こうした情報に触れる機会をもっと作ってもいいのではないかな?と個人的に思った次第です。

*1:国際医療福祉大学大学院「教員紹介」http://www.iuhw.ac.jp/daigakuin/specialty/staff/sato_teiichi.html

*2:The European Qualifications Framework http://ec.europa.eu/eqf/home_en.htm

*3:大学分科会(第109回)・大学教育部会(第21回)合同会議 配付資料 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/siryo/1324511.htm