Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

ブログを書き始めて10年経ちました。

high190です。

このブログを書き始めたのは2006年の10月30日、社会人2年目の頃でした。
当時は東京にいて仕事をしていましたが、ブログが流行ったりWeb2.0が全盛期で様々なサービスが日々生み出されていく刺激的な環境であった事を、ついこの間のように思い出します。当時、マイスターと名乗られていた倉部史記さんのブログ「俺の職場は大学キャンパス」(現在は大学プロデューサーズ・ノートに改称)*1に触発されてブログを書き始めました。自分なりに自己表現の場としてブログを始めてみた訳ですが、かれこれ書き続けていくうちに色々な気づきがあり、続けてみること10年、あっという間に時間が過ぎていました。

high190.hatenablog.com

文章を書き連ねるという行為自体にさほどの意味は無いのかも知れませんが、続けていくうちに色々な人との繋がりができ、その繋がりができた源泉は何だったかと思うと、やはりブログの存在が大きかったように思います。さしたる特技も優れた頭脳も持たない私にとって、ブログを書いてきた事は大きな自信になりましたし、ある意味では自分に対する鏡のような存在でもありました。自分が持つ問題意識をブログに綴り、Twitterに投稿する事で見て下さる方々の意見を頂戴して、どのように考えていけば良いのかを教えてもらったように思います。

気づいたら10年も経っていたんだと思うばかりですが、ここで紹介したいエピソードがひとつあります。私は小学校4年生の秋から地元のサッカー少年団に入ってサッカーに親しんできたのですが、当時の監督が「10年続けなければ分からない」と言っていらした事が非常に強く印象に残っています。10年続けなければサッカーでは本当に適性があるかどうかは分からないという趣旨の発言だったと記憶していますが、その時から10年という年月をひとつの節目として考えるようになりました。10年続けられれば適性も見えてくるし、自分の特長も分かってくるということでしょうか。
私なりに受け止めると、10年続けたことで見えてくる方向性があるという事だと思います。このブログを通じて大学に関する情報を収集し、発信し続けていく事が有機的に他者との繋がりを作り、少なからずこれから大学職員を目指そうと思う人にとって何かの役に立つのであれば、これほどブログを書き続けて良かったと実感する事はないです。
私が大いに刺激を受けた関東の若手大学職員勉強会"Greenhorn Network"の設立10周年記念イベント*2でパネリストとして登壇する機会をいただきました。そこで思いあまって「是非ブログを書いて下さい!」と訴えてしまったのですが、同じ登壇者であった松宮慎治さんが毎日のようにブログを書くようになったきっかけを作ってしまった訳です。*3しかしながら、日本国内には平成28年版文部科学統計要覧によると779の大学がある*4ので、そこで働く職員の方々が日々の業務で感じた内容などを積極的に発信する環境があったら、日本の高等教育にとって有意義なのではないかと思ったりしています。

「ブログを続けていると良いことがある」

そのことを一番実感している者として、これからもブログを書き続けたいと思いますし、何か日々の業務で物足りないと思っていらっしゃる大学職員の方がいらっしゃいましたら、是非ブログを始めてみてはいかがでしょうか。

平成28年度第20回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(2日目)

high190です。
今回も第20回大学行政管理学会定期総会・研究集会の第2日目の記事になります。初日の記事はこちらをご参照下さい。*1また、今年も全日程を通じて参加者有志によるtwitter実況も行われ、togetterにまとめていただきましたので、本記事と併せてご覧ください。*2

2日目はパネルディスカッションからスタートしました。テーマは「未来を拓く」ですが、多様なパネリストによる踏み込んだ議論が行われていたのが印象的でした。なお、ブロガーの瀬田博さんが既にまとめを作って下さっているので、是非こちらもあわせて参照しながら読んでいただければと思います。*3

20周年企画パネルディスカッション テーマ:「未来を拓く」(大学の未来・職員の未来、そしてJUAMの未来)

  • パネリスト:松本美奈 氏(読売新聞専門委員)、倉部史記 氏(NPO法人NEWVERY理事、高大接続事業部ディレクター)、水野雄二 氏(獨協大学教育研究支援センター次長)、竹山優子 氏(筑紫女学園大学学生支援課係長)、松田優一 氏(関西大学学生サービス事務局学生生活支援グループ)
  • コーディネーター:足立寛 氏(立教大学総長室渉外課担当課長・教育懇談会事務局・立教セカンドステージ大学事務室)
  • コーディネーターから各パネリストの紹介。まずは孫福初代会長の寄稿文に触れる形から始めていきたい。
  • 松本さん「大学の未来を拓くのは誰か」
    • 「大学の実力」調査から大学の現状が如実に現れている。学位に付記される名称について、非常に多岐にわたっていて、何が学べるのか、そもそも学問であるのか分からない。AO入試の退学率の高さ。6年制薬学部の卒業率の低下傾向、基礎学力の低下に伴って退学率が上昇している。
    • 入学時の学生年齢が18歳に大きく偏っている。学生の多様性は望むべくもないのが実情である。大学職員が大学の今後に想像力を持って、高等教育の将来像を描いていってもらいたい。
  • 倉部さん:大学選びという観点で、WEEK DAY CAMPUS VISITという取り組みを展開。
    • 「普段の授業を高校生に公開しませんか?」という提案を大学の入試広報課長に行う事が多い。では、この提案を受けたらどのように対応するのか?
    • 基本的に共感するが・・・「お金がない」、「人手がない。忙しい。」、「(競合の)○○大学はやってるのか?」、「教員の同意が得られない」、「上のリーダーシップがない」、「授業は教務課の管轄だから」、「うちの授業を見せたら志願者が減る」などなど。という人が多い。これは大学アドミニストレーターなのか?
      • 政策検討・実行の行動指針がない?
      • 組織間の壁を越える提案に不慣れ?
      • 全体最適化を担う意識に乏しい?
    • 「3カ年計画でゴールを設定しよう」、「どこもやってないなら、チャンスですね」、「まず○○学部から始めてみましょう」という反応をする人もいる。
      • 自分たちで成果を設定している
      • 成果から逆算して手段を講じている
      • 所属に関わり無く全体最適化を意識
    • この2人は何が違うのか?これこそ「政策提言能力」ではないのか。
    • 他の部署と連携せずに成果を挙げられる大学改革は存在しない。エビデンス重視の議論。IRを特殊なものとして考えるのではなく、日々の業務の中でIR的な発想を持ってデータを活用していく事が必要。
      • エビデンス重視の議論が大事、調査・分析も職員の専門性のひとつ。急にはできないので、若いうちから仮説・検証の繰り返しを!
      • 課題から逆算して、解決に必要なプロセスを組み立てる
    • 「貴学の中間管理職が他部署との連携を恐れないアドミニストレーターであるかどうか。それは貴学の経営はもとより、日本の社会問題解決にも関わる重要な問題」
  • 水野さん
    • 松本さんの指摘にあった経営と教育の不等式だが、現在の大学がアカデミック・キャピタリズムのようなものに成り下がっているのか?という視点での意見だと思う。戦後の教育運動で民主教育などを通じて、様々な学校が生まれた。看板になる代表者が一流の講師、学生が集まって、非常に大きな成果を挙げたが、数年で破綻した。理由は財政の破綻。これらに足りなかったのはビジネスアドミニストレーションである。学校を運営する知識・スキルを持つ人がいなかったことが原因だろう。では、ビジネスアドミニストレーションを誰が担うのか。職員である。
    • 孫福さんの意見、具体的な専門性は何か?という点は曖昧なままだった。30数年前に教務事務を担当していたが、上司・先輩職員を見ると「ルールだから」「ここに書いてあるから」という伝家の宝刀を抜いていた。大人しい学生でも不満はたまる。「違うだろう」と思った。制度趣旨などを踏まえた根拠を調べた。学生相談室に出かけていって、カウンセリングマインドについて、学生とどのように向き合ってどのように話せば良いのかなど、ごく基本的な学生との話し方を学んだ。
    • 仕事が変わると、学生の相談を受けるのが難しくなる。それまでに身につけた専門性をどう活かすか。自分自身のライフデザインで、自らの専門性をどのようにして修得していくのか。そういったものを実体験として持っていた。1982年に大学職員となり、七転八倒をたくさんしてきたが、そういった経験を通して自らの立ち位置が分かってきた。松本さんの意見には、既存の学会への批判があったが、個人的にはJUAMは既存の学会ではないという理解である。大学職員が業務の知見をどのように活かすか。
  • 竹山さん「職員の天井」
    • 1985年に男女雇用機会均等法、労働者派遣法、第三号被保険者制度(女性の分断元年)
    • 孫福さんのキーワード「ビジョナリーリーダー」:自らが組織の革新的なビジョンを示して構成員全体に向かうべき方向を示す能力、経営トップに向けて
      • 女子大学研究会、女子大学の今日的意義とは。男女共同参画社会の実現に向けて。女子学生のリーダーシップを育成するのに、「女性職員はこのままでいいのか」
      • ビジョナリーな視点が足りないのではないか。リーダーシップを発揮する環境をどのようにして若手職員に提供していくのか。性別役割と職務役割の関係性を今一度考えないといけないのではないか。
    • ビジョナリーリーダーシップ。学び続けながらアウトプットの機会を積み重ねていく事。知見・専門性を高めるために、JUAM(アカデミックを背景とした現場力)を活用する。最終的にアウトプットの対象は学生であることを忘れない。
  • 松田さん「若手・中堅職員から見た「現在」と「未来」」
    • JUAMなどでも若手・中堅職員としての活動をしており、若手・中堅職員の代表として生の声を伝えたい。
    • 大学改革研究会の活動。若手・中堅職員のピア・サポート。同世代の仲間が企画運営していく、学び合う場を作る。
    • なぜ、若手・中堅職員は大学改革研究会に集うのか。
      • 夢の場所で働きたい!
      • 学生のためにもっともっと役に立つ職員になりたい!
    • 自分なりに苦労して内定を勝ち取った。学生の能力開発に役立ちたい。多くの若手職員が熱い思いをもって入職してくる。現実は、「未来を拓く」なんて考える余裕が無い。若手・中堅職員が主体的に取り組めるものではない。
    • 若手・中堅職員の現状
      • 目の前の業務に追われている
      • 大学は危機的状況らしいという現実
      • キャリアビジョンをイメージできない
    • 志をもって大学職員になった人も、日々の業務で忙殺される中で当初の志を失っていってしまう。JUAMの近畿地区研究会に参加したところ、役員の方々から「何かやって見なさい」という形で背中を押された。そして、活動が停止していた大学改革研究会を引き継いで運営していく事になった。
    • ごくごく普通の若手・中堅職員が趣味的に集っているのが実情だが、その中で多くの気づきがあり、研究会でのイベント企画・運営を通じて、高等教育の最新情報に触れるなどのメリットがあった。
    • これからのJUAMに求めること。
      • 学会員のチャレンジに寛容な学会であり続けて欲しい。学会員がより一生主体的に参加し、JUAMを味わい尽くしてほしい。暗い未来の話ばかりだが、業務でなくプライベートでやっているので、我々が未来を変えていくのだという気概を持って活動していきたい。自分が動けば周りも付いてきてくれることを信じている。
  • これからのJUAMはどうあるべきなのか。(フリートーキング)
    • アカデミックな分野も必要である。自由な研究の機会が与えられているならば、
    • 知識に裏付けられた実践知という話があったが、具体的な事例があれば回答いただきたい(松本さん)
      • ワークショップを中心としたピア・サポートを行っている。(松田さん)
      • 人事、財務という領域は具体的な問題。各大学での知見などを集約し、そういった点を各大学で活かしている意味では具体的な事例である。(水野さん)
    • 先ほど出した例の中で、3番目のパターンの対応をした人がいる。WCVの提案をして、即決した課長がいた。自分たちの大学では既に行っていた、ということだった。その2校は産業能率大学金沢工業大学だった。(倉部さん)
    • 大学は教学、大学経営の2本の縦糸を紡ぎながら経営していかなければならない。(水野さん)
    • 意識の高い仲間と活動する事が刺激になっており、JUAMに入会して大学改革研究会に所属しなければ現在のような立ち位置にはなっていない。具体的に何かを得た!ということはない。(松田さん)
    • 最近は大学間で異動する人も増えているが、その多くの人たちが大学行政管理学会での発表などを行っている。人材バンク機能を学会が意識的に持つかどうかは色々議論があると思うが、このまま大学で働いていて大丈夫か?と思った事はないか?例えばNEWVERYにはそういった思いをもって、大学職員から転身してきた人が何人もいる。(倉部さん)
    • 根回しと腹芸。これだけで結構仕事ができる、特に管理職になれば。ところが様々なステークホルダーが出てきた今、それだけではやっていけない。何らかの理論や知見に基づいたマネジメントが必要だし、そのマネジメントに基づいた仕事ができないといけない(水野さん)
  • 松本さんに、「こうすればさらにJUAMが良くなる」という提案があれば教えて欲しい。(足立さん)
      • 現在は補助金誘導型の政策なので、ある意味において、大学が初等・中等教育化することにも繋がり得る。そういったことを避けたいのであれば、各大学が自律的にカリキュラムマネジメントを行って、3つのポリシーを実質化させていくことが必要なのではないか。(松本さん)
  • 質疑応答
    • JUAMが無くても活動はできるが、JUAMとしてアーカイブを残すという点で、JUAMだからこそこういった査読方針を採用するということがあるのか。
      • 学会誌という名称である以上、クオリティの担保は必要だと思う。しかし、発行する媒体などは変えていく事も必要なのではないか。
  • 【まとめのコメント】
    • JUAMの良さは懐の広さ、寛容性だと思う。しかし、規律と涵養の両方がある事で多様な学びに繋がると思う。若手にチャレンジする幅の広さを持ち合わせて欲しい。(松田さん)
    • JUAMはバラエティ豊かな学びの場だと思う。人を育てる場合、育つ側が文句を言うチャンスがある。そういった意見を踏まえて原点に戻る事も必要。(竹山さん)
    • 今までの大学職員はオペレーションに対するオペレーターだった。しかし、大学の高度化を支えるためには自律的に企画・提案を行って組織を動かす人物が必要。よって本学会は職員がアドミニストレーターとなることを目指してきた。これからはイノベーションであると思う。変化を見つけて変化を分析し、変化を利用することが大切なので、そうした職員になっていってもらいたい。(水野さん)
    • 水野さんの意見にあったイノベーションは本当に重要だと思う。「学生は未来からの留学生」という加藤寛先生のコメント。未来を最も確実に実現するためには、自分が未来を作っていくこと。良くなった部分もあるが、まだ未解決の点もある。30周年を迎えるための学会活動であればいいと思う。大学で働いていくために、やらなければならないことは多くある。止めるのは難しい。しかし、それを打破していくのがエビデンスだと思う。(倉部さん)
    • これからの社会に相応しい誰も考えていなかったあたらしい大学を、みんなで作っていくことが必要(松本さん)

個人的に今回のイベントで最も面白かったのがパネルディスカッションでした。大学職員、元大学職員や新聞記者など多様なメンバーが大学の将来、大学行政管理学会の今後についての意見を戦わせていたのが興味深かったです。個人的には倉部さんのコメントで「刺さる」事柄が多かったです。イノベーションの重要性の話が出ましたが、大学の事務職員という仕事柄、どうしても内向きな世界に籠りがちになってしまうのは否定できないところです。しかしながら、大学こそが変革を担う人材を送り出していくという使命を与えられていることも事実です。その中で職員がどのように行動し、また大学も職員に対して何を求めていくのか?という点で、未来を拓く職員になるためには大学内にとどまることなく、積極的に他者と協働する機会を作っていく事が必要ではないでしょうか。
他部署と連携せずに達成できる大学改革は存在しない、との倉部さんからのコメントがありましたが、大学での教職協働、産官学連携、地域連携など最近の大学にまつわるトレンドには連携・協働という文字が多くあります。他者を動かし、自らを変革していけるリーダーシップを発揮できる職員になる事が、未来を拓くということに繋がっていくのではないかと感じました。個人的にはSD義務化にあわせて検討すべきは、大学の執行部、教職員におけるリーダーシップ開発ではないかと思っています。そのことについてはまた別の機会に取り上げてみたいと思っています。

Ⅰ−8.「社会一般の人材育成・人事制度等と対比した高等教育機関のそれの特殊性は何か?」中元崇(京都大学医学研究科教務・学生支援室/名古屋大学教育発達科学研究科高等教育学講座・博士後期課程)

  • 研究目的:本研究では社会一般の労働情勢・慣行と高等教育機関の人材育成・人事制度を対比・整理し、今後望まれる人材育成・人事制度のあり様の提起を行う。
  • 日本型雇用システムの本質:雇用契約の特質
    • 濱口(2009)「雇用契約は空白の石版」「雇用契約の法的性格は、一種の地位設定契約あるいはメンバーシップ契約」の指摘
    • 個々の「職務」ではなく、組織に「所属」するメンバーシップ、人を職務に貼付けるシステム。
    • 新規定期採用制度:ポテンシャルに期待してメンバーシップを付与
    • 人事担当部署の中央集権的な採用管理:組織文化に適合的な人材化が第一義。個々の現場の希望は考慮されない。
    • 定期的な人事異動制度:ジョブ・ローテーション、玉突き人事、個人のキャリアパスなどは基本的に考慮されない。ジョブに応じてではない。人員管理、組織体制の維持が優先される。特定の職務に熟達しがたい(スキル熟達による転職が困難)
    • 企業内教育訓練の充実:個人の専門性と人事異動は基本的に不整合、一定の企業内教育訓練(OJT含む)が必要
    • 長期勤続者の優遇:ボーナス支給、退職金
    • 賃金と職務の分離:能力の代理指標としての年功制、職種別労組が未発達、無期限・無定量の業務(効率性の欠如、経験曲線効果が働かない)
    • 定年制:定期採用の裏返し、定期的に雇用終了。
  • 日本型雇用システムの利点と機能不全
    • 社会設計の上で想定しやすいモデル。しかし、社会変動の中で雇用システムが適応できなくなってきた。フルタイム非正規・ブラック企業問題
    • 大学においては事務系の専任職員において、日本型雇用システムを適用
  • 90年代以降の高等教育界の変動
    • 市場化、国際化、ユニバーサル化、ICT化の進展(従来の延長線上での対応は限界、諸業務の高度化・多様化の進展。しかし、アウトソーシング・電算化には限界)
  • 孫福弘のプロフェッショナル論
    • 二つの職務機能とプロフェッショナル機能
      • しかし、日本型雇用システムとプロフェッショナル型の雇用は接合が悪い
      • 大学における高度専門職導入の議論に対する違和感。菊地(2016)の指摘
      • メンバーシップとジョブでは異なる能力観。一緒に扱うのは無理。
        • 政策・制度レベルの諸要因の検討
        • 組織レベルの具体的な制度の検討
        • 個人レベルのキャリア成長とクロスプロフェッショナル化のあり方の検討
  • 質疑応答
    • 留学生からも日本型雇用のあり方が分からないとの質問がある。また、企業からしても働いてもすぐに止めてしまうとの評価。
      • 学術・経営専門職機能と大学アドミニストレーター機能の2つを孫福氏は指摘している。例えば弁護士資格を持つ職員を職場でどのように活用するかという点では、法務系業務のみ・ゼネラリスト志向の双方を見ていくことが必要。立命館と京大が人事交流制度を持っており、難しい部分は、同一賃金ではない中で同じ仕事をしていたという実情がある。市場的な意味で、ジョブの内容で給与が決まるようなあり方を検討していく事には可能性があるのかもしれない。
    • ジョブ型人材を交えた雇用管理は非常に難しい。古典的プロフェッショナルは専門職団体が存在している職業。弁護士、医師など。例えば学習支援専門職を位置づけるならば、職務内容のルーブリックで評価するなどの方法も検討できる。

高度専門職、専門的人材などジョブ型志向の大学職員のあり方が議論される中で、社会一般での雇用・人事と大学の特殊性との比較を通じて、今後の職員育成のあり方を論じた研究発表でした。中元さんの発表にはこれまでもほぼ参加しているように思いますが、今回も興味深く聞かせていただきました。
個人的に思う所があるとすれば、雇用や研修などのあり方を検討する際に、独立行政法人労働政策研究・研修機構*4の学術誌「日本労働研究雑誌」*5や「ビジネス・レーバー・トレンド」*6などが参考にできるのではないかと思っています。学生時代に所属していたのが人的資源管理(Human Resource Management)のゼミだった事もあり、機構のメールマガジンはいつも興味深く読んでいます。また、中元さんが紹介されていた濱口圭一郎先生も機構の研究員です。*7 *8

Ⅱ−7.効果的なSDの企画と実施−テーマパークの事例を参考に−松丸英治(昭和女子大学学長室)

  • 学生時代にアルバイトした某テーマパークと現職での研修制度の違いを感じた事から、SDに関するテーマでHRMに関連する内容をお話する。
  • 本研究の課題・目的
  • なぜ研修(人材育成)するのか
    • 組織は戦略に従う(チャンドラー)
    • 構造は戦略に従う。組織構造は組織が目的を達成するための手段である(ドラッカー
    • 組織論と現実では乖離がある。企業では人材育成・育成も投資。成果が求められるが、大学ではどうか?
  • 非営利組織の戦略
    • 戦略の重要性を知る、人をトレーニングする、廃棄のシステムをつくる
    • ポイントとしては「強みに焦点を合わせる」ことが非営利組織では重要。ドラッカーによる指摘。大学におけるSDの実施状況は国公私立を合算しても82.5%である。中身としては「職員としての基本的なスキルの修得を目的とした内容が多い」しかし、SDの効果検証は行われていないという指摘。岩崎
      • 現在行われているSDの必要性は本当にあるのだろうか。効果検証が行われていないSDに意味はあるのか。
      • 某テーマパークにおける研修。効果検証を前提とした研修制度が設計されている。合格しないと配属されない。不合格だと再研修。Disney University。かなり充実した研修施設。自分が何のための働いているのかを明らかにする。カストーディアル(清掃)マニュアルにもフローチャートがある。組織のビジョン➡組織のミッション➡部署のミッション➡部署の業務運営方針➡部署の作業という形でブレイクダウン。「毎日が初演」として業務に当たる。
      • 「現場のルールに理念を紐づける」
  • マニュアルの目的
    • 一般企業:個人の力を引き上げるため
    • ディズニー:現場のチーム全体の機能を押し上げるため
      • ストレンジャー:取り組むべき事を理解していない。
      • ディスリガード:定められたルールを軽視する
      • マインドレス:本質を理解していない
        • シンプルで明確なマニュアルを作る:全員を戦略に変える(研修)
        • 例えばディズニーランドで「ウォルト・ディズニーの理念は?」と聞けば、全員が答えられるように「訓練」されている。
    • 効果測定:相互で研修効果を確認する
      • 入社後の講義➡ペーパーテスト➡実地訓練➡実地テスト、OJT➡チェックシート、観察による評価
  • マニュアルに基づく効果検証
    • モチベーションを高め、ステップアップも踏まえた研修体系を形成。
    • 研修は、効果を確認することが前提
    • おはよう日本での紹介事例:2016/09/02
      • 近年、顧客満足度が下がってきている。ベテランキャストに対する顧客満足度向上のための接客力の向上
  • OJTでの事例
    • 研修で学んだ事を実地訓練で確認する。トレーナーとペアで業務を行い、一つ一つ作業手順を確認する。ミッションを理解した行動がとれているか確認する。効果測定方法は観察。トレーナーにも研修実施のポイントが定められている。マニュアル以上のことができるようにするために、マニュアルの的確な整備が必要不可欠ではないか。
    • トレーナーの仕事は通常業務のプラスアルファ。トレーナーをさせることでトレーナー自身の成長にも繋げていかなくてはならない。
      • SD(研修)の必要性:テーマパークでの事例は大学に当てはめていくことが可能なのではないか。ドラッカーが提唱する戦略そのものをテーマパークではやっている。大学とテーマパークの間で研修の目的に差がある?
      • SDの効果検証:効果が分からないものに投資をする意味は?東京ディズニーリゾートは3000億円程の年間売り上げがあると思うが、米国本社との取り決めで売上げの一割
    • 大学のSDは大学の理念・目的と紐づける事で、効果が出てくるのではないか。
      • 大学として必要な組織能力の把握➡所属員の能力の把握➡必要な人材と能力の把握➡SD(研修)➡効果の検証、または何に紐づけるか➡効果のある・意味のあるSDになるのでは。

某テーマパークの事例を元に、効果的なSDのあり方を模索するという興味深い内容でした。松丸さんの発表もほぼ毎回聞いているのですが、立教大学MBAを取られている事もあって、ビジネスアドミニストレーションのケースを馴染みやすいテーマパークに当てはめる事で分かりやすく説明されているのが特徴です。個人的には去年の発表でも効果検証の必要性を指摘する意見があったと思うのですが、確かに大学のSD研修においてはその視点が欠けているように感じます。
これは昨今の大学教育改革で質的転換が謳われ、修得主義から学修成果の評価に移行する過程とよく似ているように感じます。つまり、SDにおいてもただ受講するだけではなく、具体的に何が身に付いて何ができるようになったのかを測定可能にする設計が必要だという事です。この点においては、中元さんの発表の質疑応答で職務内容のルーブリックについての話が出ていたように、SDに関しても効果測定を可能とするためのルーブリックなどを検討していく事が今後のトレンドになるかも知れませんね。

Ⅲ−8.私立大学のガバナンス改革−内部対立構造を防ぐ組織設計を考える−杉原明(学校法人工学院大学総合企画部長)

  • ガバナンス改革というタイトルを付けたが、ガバナンスには様々な定義があり、内容面ではマネジメントの部分が入っている。また、テーマに入っている「内部対立構造を防ぐ」という点では、内部対立によって適格に意思決定ができない場合、大学の存続に関わる。よって、意思決定の仕組みの部分をどのように改革するか、具体的には寄附行為の変更等も含めてお話する。
    • 工学院大学は2キャンパス、学生数650人の工学系大学。最初の15年間は産業能率大学で勤務していた。オーナー系の大学。良い事もあれば良くない事もある。工学院大学に移ってきた際、民主的な大学だと思った。ただ反面、教授会で一人が反対したら決まらない面もあった。それでいいのか?という面もある。
    • 現在の理事長は卒業生で企業経営の経験を持つ人物であるが、企業的なガバナンス・組織設計の考え方が入ってきた。その中、工学院で寄附行為の変更等に至ったという経緯である。
  • ガバナンス改革の目的とは
    • 適切な組織運営による強い組織作り➡私立大学の具体的な課題(責任と権限の所在)①経営(理事会)と教学(大学)の関係の明確化、②学長(大学)と教授会(学部)の関係の明確化、③理事会と評議員会の関係の明確化➡決められない組織から決められる組織へ。経営と教学は車の両輪。
  • 私立学校法改正(2004)の目的
    • ①理事会は学校法人の最終的な意思決定機関、②評議員会は諮問機関(多様なステークホルダーの代表)、③監事機能の強化(学校法人の適切な運営チェック)➡役割分担(分化)による機能の強化
  • 学校教育法改正(2014)の目的
    • 学長と教授会の関係の明確化、①学長が業務執行を決定する(学校法人としてどこまで学長に委任するかは各法人で検討)、②教授会は教学事項に付いて意見を述べる➡教授会は決定機関ではない(諮問機関的役割)
  • 組織・業務決定・内部規則の体系イメージ
    • 体系が明確であれば、運営に混乱は生じない
  • 学校法人工学院におけるガバナンスの問題
    • ①理事会と教授会・学長の権限および責任の分担、②理事会と評議員会の権限および責任の分担、③理事および評議員の定員を削減
  • 寄附行為の見直し
    • 評議員会の議決事項、諮問事項の見直し
    • ②理事、評議員の定員および選任方法の見直し
      • 理事6〜9人、評議員定員を33名に。職務上の理事・評議員を原則廃止(適任者を選出)
  • 学長選考方法の見直し
    • 理事会が学長の任命責任を実質的に負う仕組みに。
    • 学長選挙を廃止、理事会が次期学長のミッションを提示し学長選考委員会を設置、学長選考委員は理事会・教授会・評議員会から各機関の互選。経営の視点、アカデミックの視点、ステークホルダーの視点
  • 人事制度の見直し
    • ①職員人事制度の見直し:職能階級制度、目標管理制度の導入
    • ②教員人事制度の見直し
  • まとめ:内部の対立を防止するためのガバナンス強化
    • 理事会が最終意思決定機関。よって理事長も学長も理事会の決定に従って業務を執行する。ガバナンスの強化こそが無用な内部対立を防止する手段。
  • 質疑応答
    • 工学院大学では監事機能の強化という点で、どのような取り組みをしていたのか。
    • いずれは常勤の監事を置く予定である。現状では非常勤監事2名の体制だが、財務関連の内容のみならず教学関係の業務監査ができる人物の採用がポイントである。
    • 職員人事制度の導入と組合との関係性については。
      • 色々あったが、何故ダメなのか?ということを組合側が示す事ができなかった理由である。こういった点について、ロジカルにやっていくことが非常に重要である。
    • 所属大学でもガバナンス改革を実施したが、発表内容を聞いてよく内容が整理できた。ガバナンス改革の成否は、改革内容を構成員にしっかり伝えていくことが重要だと思うが、どうか。
      • 部長レベルには会合の中で話しているが、教員や他の職員に関してはこれから説明していく段階である。全構成員にしっかり説明していく予定である。
    • 合議制を前提にしていると、ガバナンス上の難しい面もあると思うが、合議制の意思決定のアジェンダ・方針などはあるか。
      • やらなければいけないと思っている。理事会が責任を持てる集団にしていくことは必要。理事会のメンバーには重い責任があるから数も少ない。合議制が無くなると理事長の暴走を止められない体制にもなってしまうので、リーダーシップと合議制のバランスを取りながら運営する事が重要。委員会の設置に関しても学長の権限で置くように変える。大学に権限と責任を与えるから、そのために必要な組織構成を考えていくべきではないか。

大学におけるガバナンスの問題は、法改正などによって大きな影響を受けますが、その趣旨を理解して自学に適合的なガバナンス体制をどのように構築するのかということで、実例を元にした内容でした。私自身、現在は法人事務局で勤務しているため、ガバナンス体制の適切な構築という点で関心を持ってきいていましたが、個人的に感じたのは意思決定のあり方を見直すと同時に人事制度なども検討することに意味があるのではないかという部分です。
より具体的に言えば、杉原さんの所属部署である総合企画部が司令塔としての役割を果たし、トータルプランでガバナンス改革を進めていった事が良いのではないかと思った次第です。法人部門でも総務、人事、企画、財務など機能別に分化した組織を持つ大学も多くあると思いますが、それぞれが分かれているとなかなか意見を調整・集約するのは大変な事です。スピード感をもって運営するためにも総合企画部のような総括部署を置くということは、大学事務組織の合理的運営という面でも参考になります。反面、総括部署を機動的に動かせる人材がいないと機能しませんので、高い能力と専門的な知識が要求されるでしょう。まさに大学アドミニストレーターでないと担えない業務だと思います。その一端ではありましたが、杉原さんの発表から大学アドミニストレーターとしてのあり方を感じました。

以上、長々と書きましたが、今回の参加記録を終わりにしたいと思います。来年は福岡の西南学院大学での開催となります。私自身、九州には行ったことがないこともあるので、参加できるかは現時点で未定ですが、もし参加できた場合にはまた多くの学びを持ち帰れるようにしたいと思っています。

平成28年度第20回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目)

high190です。

9月10日(土)、11日(日)の2日間、東京の慶應義塾大学三田キャンパスで開催された大学行政管理学会の定期総会・研究集会に参加しました。今年の全体テーマは、「未来を拓く」です。2日間のプログラムで、1日目は定期総会、基調講演、ワークショップが開催され、2日目はパネルディスカッション、研究・事例研究発表が行われました。今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。内容が多いので今日は1日目のプログラムに関してのまとめです。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。昨年度以前の参加記録もお知らせしておきます。*1 *2 *3 *4 *5

1.基調講演「福澤諭吉における教育とモラル」(慶応義塾大学名誉教授 小室 正紀 氏)*6

  • 教育組織における道徳教育について話す。福澤は、学校におけるモラル(「気品」)の教育をどう考えていたか。
    • 結論的には:近現代教育への福澤の違和感。違和感を感じつつも前向きに
  1. 福澤のいう学問とは
    • 学問=「実学」※実用学・実業学ではない
    • 実学=「サイヤンス」=「サイエンス」
    • 科学的実証に基づかない「虚」な学問に対して、実証的「実」な学問
  2. 実学
    • “本塾の主義は和漢の古学流に反し、仮令い文を談ずるにも世事を語るにも西洋の実学を根拠とするものなれば、常に学問の虚に走らんことを恐る”
  3. 初期の福澤:智>徳 明治8年「文明論之概略」第6章
    • 私徳、公徳、聰明叡智(Thomas Clarkson, John Howard)
    • 私徳は教えられない「無形の際に人を化する」、当時の日本での不足は私徳ではなく智
  4. 「気品」・モラルの問題への直面
    • 明治15年頃以降の政府による道徳(儒教)教育の復活
    • 明治20年代後半以降、「私徳」についての憂慮の中で
  5. 明治15年頃以降:政府の道徳教育
    • 明治15年以降、政府は徐々に儒教的な忠君愛国の教育に復古していく。福澤はそれに反論。
      • 儒教は近代社会の実態に合わない。
      • 道徳は社会が育む。"道徳心の発育と其標準は之を社会の気風に一任す可し"
      • 学校では道徳は教えられない。
      • "人の子を学校に入れて育すれば、自由自在に期する所の人物を陶冶し出す可しと思ふが如きは、妄想の甚しきもの"
      • 例外:「徳育の実効を奏す可きものは、必ず家塾私塾に在り」師弟長幼相混在して不言の間に精神を伝える。緒方洪庵適塾がモデル
    • 今、大事なのは徳育ではなく知育
  6. 福澤の道徳教育論
    • 儒教主義は不可能、時代錯誤
    • 道徳は社会に任せるべき
  7. 明治20年代後半以降 福澤の徳育論(1)
    • 私徳の問題に向き合う:「紳士紳商の醜行」
    • 森村明六宛の手紙“何卒私徳を厳重にして、商業に活発にならんことを祈るのみ”明治29年1月
      • 日原昌造宛の手紙”老生の心事は千諸万端なるも、就中俗界のモラルスタントアルドの高からざること、終生の遺憾”明治29年3月
      • 若い時の思想と反する現状に直面する
  8. 明治20年代後半以降 福澤の徳育論(2)
    • 私徳は重要だが、儒教主義では解決できない。
  9. 儒教主義教育との再対決
    • 儒教主義教育・文明進歩の抑圧
  10. 慶應はモラルを教育できるか?
    • 「私塾」性の喪失、「気品の泉源、智徳の模範」における憂慮
  11. 気品の泉源、智徳の模範
    • "老生の本意は此慶應義塾を単に一処の学塾として甘んずるを得ず。其目的は我日本国中に於ける気品の泉源、智徳の模範たらんことを期し、之を実際にしては居家、処世、立国の本旨を明にして、之を口に言ふのみに非ず、躬行実践、以て全社会の先導者たらんことを期する者なれば、今日この席の好機会にも遺言の如くにして之を諸君に嘱託するものなり"
  12. 慶應の存廃に煩悩する福澤
    • "世の中を見れば随分患ふべきもの"
    • 「人心の方向を転換したい」と思うが、"それこれを思えば、本塾を存しておきたく、ツイ金がほしく相成り候。また是老余の煩悩なるべし"

福澤諭吉の思想などをベースに、現代の教育には何が求められるのか、また福澤の思想的な背景が時代とともにどのように変質していったのかを詳細にご講演いただきました。個人的には福澤が没する前に、慶應義塾の廃塾を口にしていたのは驚きでした。結果として、周囲の者によってそのようなことにはならなかったのですが、"先導者"という言葉を用いて世の中の先を見通していた福澤の先見性には脱帽する他ありません。
私立学校は「建学の精神」という固有の文化に依拠した組織ですが、時代とともに社会の変化に適応するためにこそ、創立者の思想をひもとく事は必要不可欠な事柄であります。私はこれまで、慶應義塾出身者の方と仕事をする機会に多く恵まれましたが、その際に"半学半教"のことを聞いてきましたし、その実践にも触れてきました。適塾をベースとした福澤諭吉の教育思想が今日まで生きていること、慶應義塾が重視する普遍の理念を説く基調講演として、このテーマが選ばれていたことには深い思いを感じた次第です。また、講演で紹介されていた「文明論之概略」を是非読みたいと思いました。

2.ワークショップ「中堅職員Meetup Tokyo 関東地区初!中堅職員しゃべり場〜あなたの「これまで」は誰かの「これから」」(大学改革研究会)

ちょうど自分自身が中堅職員の立ち位置ということもあり、同じ年代の職員の方々がどのような思いを持って日々の業務に向き合っているのかを知りたくて、このワークショップに参加しました。冒頭、ファシリテーターからの自己紹介があり、その後にアイスブレイクを経てグループに分かれてワークを行いました。ワールドカフェの手法を応用して、シンクペアシェアなども活用しながら短時間でグループ毎の結論をまとめ、共有するというやり方でしたが、最近、こういったグループワークなどを自分で企画してみたいと思うことが多くなってきたので、運営という部分でも参考になる点が大きかったです。
ちなみにhigh190が参加したグループでは「どうすれば危機意識を共有できるのか?」というテーマについて議論しました。議論の過程で興味深いな、と思った事項を以下に挙げておきます。

  • 学外で活動する(同志を得る、というコメントもありました)
  • 自ら発信し続ける(発信しなければ情報は集まりません。これはブログを続ける事と同義です)
  • まず自分が変わる(組織変革のためにはまず自分を変えていかないといけない)
  • 痛い目にあわせる(傍目から見て危ないと思っても経営陣に気づいてもらうため、あえて止めないで寸前の所で介入するなど)

同じぐらいの世代の職員の皆さんと議論できて楽しかったです。また、自分自身が現在取り組んでいる課題とも関連する議論が多く聞けたので、その点でも収穫が大きいワークショップでした。大学改革研究会はこういったワークショップをこれまでも開催しているので、今後の展開にも期待したいと思いました。*7二日目のまとめについても別途、お知らせしたいと思います。

東北大学PDプログラム「大学カリキュラムの構造と編成原理」に参加しました

high190です。
参加してからだいぶ日にちが空いてしまいましたが、4月29日に東北大学川内キャンパスにて開催された標記セミナーの参加記録を掲載します。以下の記録はhigh190が聴講した際に記録としてメモした内容になりますので、主観が入っていること、内容に誤りが含まれる可能性があることを予めご了承いただければと存じます。なお、当日の講演記録は東北大学PDP ONLINEで公開されていますので、併せてご確認下さい。*1


開会挨拶 東北大学大学教育支援センター長 羽田 貴史 教授

  • 大学におけるカリキュラム改革の議論の中で、教学マネジメントの重要性が指摘されているが、ナンバリング、クオーター制などの小道具を取り入れても、なかなかうまくいかない。やはり学生が学ぶ上でのカリキュラム設計・全体的な視点を持たないと小道具も生きてこない。その点で教養科目がコアになってくる。教養教育の歴史から現状までを吉田先生にお話いただく。カリキュラム改革を考える原理を是非学んでいっていただきたい。

「大学カリキュラムの構造と編成原理」早稲田大学教育・総合科学学術院 吉田 文 教授*2

  • はじめに
    • まず、アメリカの大学における教養教育の歴史的展開。
    • 日本の高等教育を考える上でアメリカはキーになる。日本の戦後教育でもアメリカ型教育はモデルになっている。
  • カリキュラムとは何か?
    • 初等中等教育では学習指導要領が定められている。理念・内容・方法について、大学カリキュラムは各大学の理念などを踏まえて編成することが必要とある。
    • 定義:教育の目的にしたがった内容・方法の順序・完了に関する計画(それを実施する組織構造=学習活動・経験の総体)※明示的なカリキュラム
    • hidden curriculum 受容する学生側の視点も必要:意図的ではなく、何らかの学習経験を積ませるためのもの ※この視点が非常に重要

1.リベラル・アーツの理念

  • 古典古代(ギリシア、ローマ)
  • 理念:自由市民をwell-rounded character,educated manに(理念的にはほとんど現在でも変わっていない)支配者たる自由市民は「欠けるところの無い総体」であるwell-roundedな人材を育てるのがリベラルアーツ。リベラル・アーツを受けた人間は、educatedとは人格特性、支配層として必要とされてきた。
  • 当時の学問大系を「欠けるところなく」教えるのがリベラルアーツ
    • 内容:自由七科(文法学・修辞学・論理学(弁証法)と算術・幾何学天文学・音楽)であった。当時の社会における全ての学問。文理を分けない。
  • ヨーロッパ中世の大学
    • 医・法・神学部の前段階の学芸学部、哲学部で自由七科、パリからオックスフォード、ケンブリッジ。当時はイスラム社会の方が学問的に進んでいた。地中海に大学が創られていき、後進国であったパリ・イギリス(オックスブリッジ)に引き継がれていく。※幅広い教育による人格形成、紳士養成という理念の継承
  • アメリカ植民地カレッジ

2.アメリカの植民地カレッジ

  • ハーバード・カレッジのカリキュラム
  • prescribed curriculum(選択がない必修のみ)聖職者の養成、少年の訓練
    • 午前中は暗唱、午後は討議。
    • 宿題が必ず課されていた。月・木:哲学、水:ギリシア語、火:ヘブライ語、金:修辞学、土:教理問答

3.古典語と近代科学の対立

  • 古典語中心のカリキュラムへの批判:近代科学、近代言語、学問の多様化
  • 3年制、not B.A.butB.S./B.P.(Bachelor of Science,Philosophy)
  • 礼拝時にリベラル・アーツの学生と同席不可 ※近代科学はリベラル・アーツより劣るものと考えられていた

4.自由選択制と配分必修制

  • 1869:エリオット(ハーバード大学学長)※40年近く学長を務める
    • 自由選択制(electives)の導入 多くの科目を開講して学生が選択履修*4
    • デパートメント制、ナンバリング、学年制➡履修制(こっちの方がうまく機能すると考えた)
      • ※実はうまく機能しなかった。学生はそこまで大人ではなかった
      • ※好きなものだけつまみ食い、体系的な学習にならない(ラーニング・アウトカムズの概念?)
  • 1909:ローウェル(エリオットの次の学長)
    • エリオットの改革の見直し
    • 配分履修制(distribution requirement)という発明(科目のカテゴリー、枠を決めておくという考え方、履修の範囲・順序を決めて、一定の自由度を持たせる)
      • general education vs. major = breadth vs. depth = distribution vs. concentration
      • カーネギー・ユニット*5
      • 単位制による授業科目の互換や累積加算が可能(いわゆる単位制、時間によって履修内容を交換できる。現在の単位制度の原型)学習時間による履修科目の交換可能制を担保する、併せて科目間のモジュール化が可能になった。"Credit transfer"

5.大学と一般教育(general education)

  • 専門教育が大学の中心、職業教育の台頭
    • リベラル・アーツは一般教育へ
  • 19c:カレッジから大学(university)へ
    • 1862:モリル法によるランド・グラント大学(連邦政府の土地を州政府に供与、州立大学、A&M*6テキサスA&M大学などはその名残
    • 一般教育はアメリカの特徴、ヨーロッパは一般教育を後期中等教育に落としていくが、アメリカでは前期2年・後期2年の課程を構築。※唯一の例外
  • 【学士課程と一般教育】
    • 学士課程:一般教育+専攻(major)+自由選択
    • 必修と選択、単位制とモジュール
  • 【組織】
    • デパートメント制、専攻・学位の責任単位(学科としての組織、現在に至る前の基本構造)
  • アメリカは西に行くほど州立大学が発展している。(フロンティア)東部はリベラル・アーツ、西部は職業教育という対比

6.幅広さと一貫性(breadth & coherence

  • 【一般教育の提供方法】
    • 学士課程は文理学部が中心(研究大学においては)
    • 多数のデパートメント
    • 専攻の科目の初級段階が一般教育の単位として履修可(g.e.科目として開講されているわけではない)
      • 多数の科目が羅列される、g.e.への責任は不明確
  • 【一般教育の履修方法】
    • 入学時に専門は未決定(まず文理学部に入る。3年時にメジャーが決まる)
      • ※日本でも少数の大学(東京大学の進学振り分け)が取り入れているが、多くは専門が決まっている。
    • 2年間で一般教育を履修しつつ、専攻を決定
    • 多数の科目から系統だって履修する事は容易ではない
      • 幅広さと一貫性(breadth & coherence)とどう両立させるか(必ず繰り返される議論)
      • デパートメント毎の戦略がある。アメリカの場合、学生数によって学科がスクラップアンドビルドされるので、科目の羅列になる。ここに権限をもってメスを入れる事はアメリカの大学でも困難

7.一般教育への批判と回復

  • 1920〜30’s:WWE後の一般教育運動
  • 1945〜50’s:WWE後の一般教育運動
    • 民主時代の市民の育成、政治的役割の強調
    • ハーバード大学のGeneral Education in a Free Society:
  • 1980〜90’s:マルチ・カルチュラリズム
    • canon批判(Dead White European Male)➡アメリカの多様性に反する理念ではないか、という批判
  • 多様な民族、多様な世界への視野の拡大(理念としては生きている)

8.戦後日本への導入

  • 1府県1大学:専門学部生による高等教育機関と準高等教育機関との統合(大学と旧制高校師範学校)※国立大学の例、単位制の導入
  • 4年制大学における2年間の一般教育(cf.アメリカ教育使節団の勧告)、単位制の導入
  • 【どの組織・教員が一般教育を担うか】:旧制高校文理学部)と師範学校(学芸学部)➡組織的な分断
    • リベラル・アーツ(全人の育成、非職業教育)への理解不足:低度の教育、全学部共通(12単位×3領域(配分必修制)+外国語+保健体育=48単位)
      • ※日本の大学が一般教育を誤解した結果
      • ※保健体育が入ったのは結核に対する意見(120単位に修められず、124単位になった。これは今でも引き継がれている)
      • ※不幸な出発。アメリカで文理学部のみに適用されていた一般教育を全学部に適用してしまった問題

9.マス化と教養部

  • <国立>
    • 1963:国立大学教養部の法制化(4年間で32大学)
    • 1964:国立大学の学科及び課程並びに講座及び科目に関する省令
      • ※一般教育の責任の所在の明確化、学部と異なる教養部➡教員身分の固定化(設置基準大綱化に繋がる)
      • ※文部省:第一次ベビーブーム世代とマス化の吸収装置(教養部と学部の学生増加に対する教員配置の違い)教養部法制化の裏には、増加する大学入学者数に対応して、半強制的に作らされた。(埼玉大学教養学部の歴史を参照*7*8
  • <私立>
    • 拡大期の非常勤依存(一般教育>学部)、見えない差別(一般教育と専門教育での専任比率に大きな差があった)
    • 高度経済成長期を踏まえて私学が拡大していく。
      • ※廉価な一般教育(その反面、このことによって日本の大学は数字上、大きく発展したとも言える)

10.教養部改革とその頓挫

11.大綱化と教養教育

  • <大綱化によって>
    • 大学設置基準上の「一般教育」の廃止
    • 教員間の差別の解消、全学出動体制
    • 教養教育・共通教育・全学教育…前専門の幅広い学習
  • <その後の変容>
    • 理念としての能力の涵養
      • 学習成果への要請とのかかわり
    • スキル化とリメディアル化の進行
      • 大学教育の準備教育の必要性(初年次、ICT、キャリアなど)
    • 組織統合する大学の登場
      • 集約によるコスト削減?(地方国立大学によく見られる)※これらを検討する可能性

12.日米の大学における類似点と差異点

  • 教養の獲得が理念的には言われるが、定義は多義的になっている
  • 学問が職業との結びつきを持っているものは、リベラル・アーツではない
    • プロフェッショナル・スクールがある分野はリベラル・アーツではない?
    • 職業との接続性を踏まえた議論
    • 配分必修制は、アメリカから取り入れられた概念。
    • 教員・学生にも一般教育を行うインセンティブがない
    • 一般教育は不要・不可欠の議論が混在し、カリキュラム上での位置づけをどのように考えていくかは、あまり議論されてこなかった
      • ※一般教育・教養教育をカリキュラム上、どのように位置づけるか

質疑応答

  • 社会学部で教務主任をしており、カリキュラム改革を担当している。大学カリキュラムの構造に関して、日本の大学におけるカリキュラム編成原理は語られなかった。まだ見えていないという批判も含まれているが、今後の方向性などをお聴かせいただきたい。
    • 日本の大学はある意味、非常に自由化している。設置基準大綱化以降は自由化してしまっていて、何がメインな形であるかはよく分かっていない。大綱化移行、教養教育の比率は下がったが、2000年ぐらいで下げ止まったように思う。一般教育・教養教育をテコ入れした大学もある。全学的なカリキュラムを作って、何をどのように組み合わせていくかという点で、各大学なりの考え方をもって編成している。非常に多様化しているが、今後どうなっていくかを考える時にコスト削減を踏まえつつ、他大学の実例を紹介いただくとよいのではないか。
  • 例えば、一般教育担当部局と、学部・研究科との協議が行われる体制は構築されてきているのか、それとも分断したままなのか。そういったコミュニケーションは取れているのか。また教養が混沌とした中で教員もよく理解できていない状況化で、学生にとっても「何のためにやるのか」が出てくる。その点で教員に意見がぶつけられてくる。
    • 国立大学の場合、教養部解体の後に○○センターができているが、学部間の壁を乗り越えるまでには至っていないのでは。専門学部の教員としては、早く専門科目を教えたいと思う。その擦り合わせは簡単ではない。アメリカの大学の場合、専攻毎に先修条件を設定している。そして人気の高い専攻にいこうと思えば一定の学修量と選抜が求められてくる。日本のように入学時点に専門が決まっているところと異なる点。
  • 大綱化以降の教養教育、スキル化の現状などを歴史を踏まえつつ個人的な意見はどのようなものを持っているか。
    • 大学進学率が5割を超えている中で、スキル化の議論が出てくるのは必要不可欠なのではないか。具体的には英語教育である。しかし、第二外国語を必修にしている大学は非常に少ない。また英語ではオーラル重視であるが、第二外国語をやらないことで、得られる知識が矮小化してしまう。スキルの修得には役立つが、社会・文化などのいわゆる「教養」を得られる機会を喪失するなどの影響も反面存在している。
  • リベラル・アーツの日本における定義は?学生の多寡で議論される面が無いか。
    • アメリカでも多義的な使い方をしている。学問体系としてリベラル・アーツではないが、リベラル・アーツ的な理念を組み込んで専門教育を教えるという言い方は、アメリカでもよくなされる。
  • カリキュラム改革に関して、日本学術会議の報告書などで指摘されているが、内容を中立的に、内容よりも結果という感じがある。幅広さは多少妥協して結果を求めることが大学としての方針を立てる事は望ましいのか?
    • ラーニングアウトカムズ、学士力や社会人基礎力に代表される"○○力"が設定され、そのパーセンテージを測ることは困難。個人が持っている力がどの程度伸びたかをどう見るか。例えば批判的思考力はインプットとアウトプットがイコールになるのだろうか。専門科目を並べただけでも能力が身に付けばそれでいい、という議論にもなりかねない。学問大系としての知識を教えること、その反面、スキルを活かすことを検討すべきでは。
  • 看護学部で教員をしているが、看護師に対する社会的要請は高まっていて、必要とされる能力を修得するためにカリキュラム化するとそれだけで相当数の単位数になってしまう。逆に大学が集中すべき領域を設定していくことも必要ではないかと考えるが、その点についてのコメントをいただきたい。
    • 今求められているのは、○○力(何かをやれば到達する力)と言われているが、文章を書く能力、ライティングスキルは基礎科目であるが、その改革に関してacross the curriculumという制度が80年代などにはあった。何単位必修ということではなく、教員毎に課題を課す事で専門毎に教員の指導(ティーチング・メソッド)を受けられるようにする方法もある。
  • 学士課程答申以後、学士課程での到達目標などで大学教育改革の中で、答申で言われている内容に関して、専門教育と教養教育のいずれを重視するかということなのか。
    • 答申では専門・教養という意見ではなく、どちらかというと学士号の位置づけを明確化する、4年間のシーケンスを明らかにすることが重要。日本学術会議が作っている参照基準は、学問分野毎に身につけるべき能力を提示している。日本ではシーケンスに対する議論をしてこなかったのだと思うので、その点に関してフォーカスしていくべきではないか。
    • OECDコンピテンシーに関して。中教審答申で決定するものは政策的な意見であるが、認知科学の知見が無いままに。カリキュラム自体が学者の専門性に依存した形になってきている。教養部が教育の内容面を議論することができるのが、アメリカの良い部分。教養の無い教員には教養教育はできない。*9

カリキュラムを巡る最近の議論としては、教学マネジメントの重要性が指摘され、あわせて高大接続改革でも3つのポリシーに基づくカリキュラム編成が求められるようになるなど、履修主義から修得主義への移行が進んできているように感じます。2016年3月に公表された3つのポリシーの策定・運用に関するガイドライン*10では、「学生の教育に関わる全ての教職員が三つのポリシーを共通理解し,連携して質の高い教育に取り組むことができるようにすることが重要」とした上で「教学マネジメントに関わる専門的職員の職務の確立・育成・配置」が必要という指摘もなされています。その他、学修成果のアセスメントなども今日の教学マネジメントで話題になる点です。*11
しかしながら、今回のセミナーに参加して気づいたことは、カリキュラムに関わる議論を理解するためには、そもそも大学がこれまで歩んできた歴史も踏まえた視点が必要であるということです。歴史を理解し、実際に教えられる内容にまで理解が及ばないとカリキュラムの全体像を理解することは困難だということですね。職員としてカリキュラムに関わるために、様々な知識を得ていくことが重要なのだと感じました。それにしても高度な内容の連続。私自身勉強になりましたが、この内容を消化するためにはまだまだ勉強が足りないことを痛感したセミナーでした。

*1:大学カリキュラムの構造と編成原理 http://www.ihe.tohoku.ac.jp/CPD/PDPonline/archive/detail.php?id=50

*2:http://researchmap.jp/read0179375/

*3:アンテベラム期のアメリカ高等教育史におけるイェール報告の位置 : トマス・クラップのカレッジ・カリキュラム論との比較を通して https://ci.nii.ac.jp/naid/120005464940

*4:20世紀前半におけるハーバード大学のカリキュラムの変遷−自由選択科目制から集中-配分方式へ−(福留2015) http://goo.gl/jvv6rs

*5:The Carnegie Unit: A Century-Old Standard in a Changing Education Landscape http://www.carnegiefoundation.org/resources/publications/carnegie-unit/

*6:ランド・グラント大学についての論文。参考になると思います。 「大学の地域にとっての有用性 : モリル法の制定とランドグラント大学としてのパデュー大学に関する考察」http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/handle/10466/11005

*7:教養部の形成と解体-教員の配属の視点から- http://www.zam.go.jp/n00/pdf/nc006006.pdf

*8:国立大学の学科及び課程並びに講座及び学科目に関する省令(昭和三十九年二月二十五日文部省令第三号) http://law.e-gov.go.jp/haishi/S39F03501000003.html

*9:以前にも引用していますが、コロンビア大学のコアカリキュラムについての記事が参考になります。http://d.hatena.ne.jp/adawho/20100205/p1 http://d.hatena.ne.jp/adawho/20100206/p1 http://d.hatena.ne.jp/adawho/20100211/p1

*10:「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン平成28年3月31日 大学教育部会) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1369248.htm

*11:高大接続の答申から考える大学の評価に関する人材ついて(大学アドミニストレーターを目指す大学職員のブログ) http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2014/12/23/094149

大学行政管理学会東北地区研究会・シンポジウム「地方創生と大学の役割」に参加しました

high190です。
5月21日(土)に東北学院大学で開催された標記のイベントに参加してきました。今年で大学行政管理学会は創立20周年を迎えるとのことで、今回は東北地区の記念イベントとして「地方創生と大学の役割」と題したシンポジウムが開催された次第です。
今回も参加した内容をまとめてみました。理解違いなどがある可能性がありますので、予めご了承下さい。


会場校挨拶:東北学院大学学長室長 阿部重樹氏

  • 地方創生が世間的に知られたのは、増田寛也氏の「地方消滅」という書籍ではないかと思う。
  • 女性の出産年齢の上昇、若年女性の社会的移動が地方自治体の消滅に繋がると指摘。地方の大学が少子化、地元出身者の県外流出などに対処するためには、地域社会との連携・信頼関係の構築が不可欠である。
  • COC事業の直前に、大学は地域の財産、地域は大学の財産ということで話をいただいたことを思い出す。この言葉の意味の重たさを最近考えている。そのことを踏まえると、今日の基調講演とパネルディスカッションが地方創生に大きく役立つと考える。

基調講演「我が国の地方創生政策の動向〜地方創生と大学の役割〜」
文部科学省高等教育局大学振興課 課長補佐 遠藤翼

大学の職員に対する期待が高まっている中で、こういった機会が得られて嬉しく思っている。平成18年に入省、10年目。科学技術政策に携わり、その後に初等中等教育局に異動。私学行政課では私学助成を担当した。その後に大臣官房を経験した後、高等教育局に来て、3つのポリシー、大学設置基準などを担当している。

1.法令の規定等から見る大学の目的・役割の変遷

  • 帝国大学令(明治19年)
  • 大学令(大正7年)
    • 国以外の設置形態が認められるように。「国家思想の涵養」
  • 学校教育法(昭和22年法律第26号)
  • 教育基本法(平成18年法律第120号)
    • 第7条 「社会の発展に寄与する」
  • 学校教育法(昭和22年法律第26号)
    • 第83条第2項 「大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。」
    • 歴史的にも大学を法令上で位置づけてきたが、求められるものが変化してきた。
  • 「平成12年度以降の高等教育の将来構想について」平成9年1月29日
    • 高等教育の機会均等
      • 国としては、収容力格差の結果として進学率に大きな格差が生じず、かつ、大学等に期待される地域貢献機能が各地域において確保されているという状況を目標。同時期に工場等制限法が撤廃*1
  • 「我が国の高等教育の将来像」平成17年1月28日
    • 地方における高等教育機関は、それぞれの特色を発揮した教育サービスの提供の面だけでなく、地域社会の知識・文化の中核として、また、次代に向けた地域活性化の拠点としての役割をも担っている。
  • 「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」平成24年8月28日
    • 大学は、個人が生涯にわたって知的な基礎に裏付けられた豊かな教養や知識、技術、技能を主体的に学修する機会を提供し、その地域に即したイノベーションの創出をリードする地域社会の核。
    • 地方自治体や地域社会は、地域の大学と連携し、その知的資源を積極的に活用することが期待

2.我が国の大学を取り巻く環境

  • 大学の直面する諸課題
    • 人口構造の変化と大学経営の影響
    • 国際化への対応の必要性
    • 地方創生
    • 産業構造の変化と大学に求められる役割の変容
      • 各種統計による現状の紹介、国際比較など
      • 最近、大学生の学修時間を文科省で調査したが、平均的に見ると学生ひとり当たりの学修時間は伸びていないのが実情
      • 大学進学率の地域間格差(東北地方は宮城県を除いて進学率が低い)
      • 居住地変更の3タイミング(大学進学、大学卒業・就職、リタイア後)
      • 人口流入の多い都道府県とそうではない都道府県の差が拡大傾向
      • その反面、大学・短大の自県進学率は上昇している
  • 地域課題解決に関する公開講座実施状況
    • 各大学で取り組みに差がある。しかし、地域課題解決型(地域リーダー育成、地域学など)は受講者数が多い
  • 地域貢献に対する大学の貢献の取組状況
    • 各大学で実施状況にグラデーションがあるので、各大学が持つ資源を踏まえて戦略的に公開講座等に取り組む必要性

3.高等教育政策の動向〜平成27年度末の法令改正を中心に〜

  • 3つのポリシー策定・公表に関する省令改正(AP,CP,DP)、ガイドライン策定済(自主的・自律的な3つの方針の策定と運用の参考指針)
    • 3つのポリシーを具体的に策定するにあたって、学部段階・学科段階など定め方はそれぞれの学校が戦略的に考えることの必要性
    • 法令上の根拠:学校教育法施行規則第165条の2
    • 学士課程教育は義務化、大学院はアドミッションポリシー以外は適用除外(大学側が想定する学修成果を飛び越える人材の育成を大学に期待しているため)
  • 認証評価制度に関する省令改正*2
    • 認証評価基準に3つのポリシー、内部質保証を追加
      • 特に内部質保証に重点を置いて評価する、自律的なPDCAサイクルの構築
      • 上記を実現するためには大学職員の能力向上が関係
  • スタッフ・ディベロップメントに関する省令改正*3
    • 大学職員の資質の維持・向上が必要
      • 単純に「研修をしなければならない」と規定しなかった理由を考えて欲しい
      • FDは目的を定めていないが、SDについては目的が定められている。
      • 各大学が研修を個別にやる時代ではない。共同型の各種研修を通じて自らの能力を高めていける職員。
      • 「その他必要な取組」この記述がポイント。研修の実施方針・計画の全学的な策定。
      • 当該条文の「職員」には、法令上の規定通り、教員・執行部・技術職員・事務職員を包括する。

4.地(知)の拠点としての大学

  • まち・ひと・しごと総合戦略(全体像)
    • 「地方大学等創生5カ年戦略」*4
      • 知の拠点としての地方大学強化プラン
      • 地元大学定着促進プラン
      • 地域人材育成プラン
  • COC+のねらい
    • 若者の地元定着率の向上や地域における雇用創出を推進する取組や、その地域が必要とする人材を育成するためのカリキュラムの構築・実施を支援
    • KPI、事業実施大学における卒業生の連携自治体内企業等への就職率、連携企業等の雇用創出者数
  • COC+における協働の重要性
    • COC+のスケジュール
      • 競争型資金として配分。事業実施年度毎に補助額は逓減し、最終的には共同事業体の大学・企業等が出していかなければ。
  • COC+選定委員長所見
    • 地域の自治体や企業等との課題を共有
    • 強固な共同関係
    • 地方創生に向けて高い成果が見込まれる
      • 学長の強いリーダーシップにより、全学一丸となって事業を実施
      • 大学等、自治体、企業が役割を分担(コストシェア)することでスケールメリットを活かした取組とすること
    • 熊本地震での学生ボランティア等の取組
      • 優れた取り組み。震災時のサポートステーションとして機能している例も

5.学生の定着と人材育成

  • 奨学金を活用した大学生等の地方定着
  • 実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化について
    • 大学体系の中に位置づけ、学位授与機関とすることを基本(「大学たる学位授与権を持つ」ということが重要なポイント)
    • 質の高い専門職業人養成のための教育
  • 大学における入学定員超過是正方策
    • 私学助成を全学不交付とする基準を厳格化。31年度まで段階的実施。
  • 職業実践力育成プログラム(BP)の事例
    • 岩手大学金沢大学(履修証明+地方創生)
    • 社会人の学び直しの場合、学位よりも国家資格取得にニーズ

質疑応答

  • 収容定員是正策を進めるとの話があったが、今後どのように考えているのか。
    • 資料以上のことはまだ検討していない段階。ただし、今後の私学の検討会議がスタートしているので、そちらの会議での議論経過を注視していただけると今後のあり方も見えやすくなるのではないか。
  • 経常費が削られていくと、新しい取組には競争的補助金に頼らざるをえない状況がある。その点についてはどうか。
    • 私学の収入は授業料収入に大きくよっている。補助金収入は平均1割程度であるので、あくまでも授業料収入の確保をしながら、ということになる。今後は適正な運営をどのように行っていくかが重要。今後は大学間でのリソースの共有、大学間統合、学部等の設置廃止なども視野に入れていただくなどのことを文科省でも視野に入れている。

大学制度創設からの流れについて、分かりやすい説明があり、その上で現在の地方創生政策と大学の役割は何であるのかについての解説でした。
個人的には、歴史的経緯を踏まえた高等教育制度の理解は、政策的な動向を踏まえて自学のあり方を検討するため、大学のマネジメントに必須の知識であると再確認しました。そういった意味でも、こうした各種講演会で発表された資料を公表していくことも、大学行政管理学会に求めたいと思います。(もちろん著作権などのこともありますが、そのためにクリエイティブ・コモンズなんかも整備されているので)せっかくの講演なので、その内容を広く公表していった方が、色々な人の目に触れていいのではと。*5

パネルディスカッション「地方創生と大学の役割」

  • パネリスト
  • 松崎氏:終わった後に「いい話を聞いた」ではなく、「具体的に取り組むこと」を検討できるように。常日頃取り組んでいること、考えていることを順番にお話いただきたい。
    • 三浦氏:ものづくり産業の人材育成・定着について担当している。今日この席にいるのは、担当部署がCOC+を担当しているから。構想書をじっくり読むと、「様々な関係機関との連携」という文言が出てくる。県で進めるものづくり人材育成確保対策事業では、初等教育から高等教育までに施策を実施。しかし、大学生向けの事業は都道府県で少ないのではないか?という意識。その他、教育委員会との連携体制などもしやすい。しかし、大学に関しては自治体の関与は少なく大学にお任せしている実情。その点で県としても大学との連携を進めていきたい。県側からすると大学との連携というと、審議会の委員への就任、研究会の研究主査などへの招聘などを想定する。
      • 事業開始前に、東北学院大学の相澤氏と議論すると、大学の職員も様々な面で地域連携を検討されていて驚いた。こうした職員となら協働していけると感じ、職員も積極的に表に出てきてもらいたい。
      • 大学職員と議論する中での共通点などは何だったか?
      • 行政の立場からすると、教員と話すと話を聞くことが主体になる。職員とだと同じ立場として議論できる部分が共感できた。
    • 八浪氏:震災後、国内外から様々な支援をしていただいた。今年で創立120周年を迎えるにあたって、イベントを企画していた。今回はデジタル事業部時代の取組が中心になるが、震災以降に始まった学生と新聞社との協働事業。震災後の情報ボランティア(学生育成と社会貢献のプログラム)震災時の混乱などを踏まえてスタートし、現在も続いている。ちょうど震災時にはtwitter,facebookなどのソーシャルメディアが興隆してきた時代であり、その時に始めた。学生の目線を活かした取組。中身をどう高め、深化させるかに課題があった。
      • 「記者と駆けるインターン」マスコミ志望者とのマッチング。
    • 倉本氏:たらこ製造の会社。水産加工場の食育活動、保育施設結いのいえ。地域創生に関する取り組み。東日本大震災からの復興に関する取り組み。地域との協働によって復興の推進役に。東北学院大学との関わりは、2014年からの復興支援インターンシップを受け入れた。その際にボランティアステーション・教員・関係者との協働。地域で一生懸命事業を行う企業と大学との連携。
    • 関屋氏:高等教育推進センターでFD・SD、大学改革などを担当。昨年からCOC+推進室の担当になった。昨年度にCOC+を取得した公立大学は3校。事業スキームの説明。連携校は岩手県内大学が中心。東京都から杏林大学が参加。あわせて協力校として東京海洋大学横浜国立大学首都大学東京北里大学慶応義塾大学システムデザイン研究科がある。
      • H26の地元就職率は45%だが、それを事業最終年度のH31には55%に引き上げることを計画としている。COC申請では岩手大学が先行していたが、COC+の申請時に調整して、岩手県立大学も参加校として加入することになった。
    • 相澤氏:参加大学12校で7つの部会を設置している。県内就職率の10%向上が目標であるが、就職する学生がハッピーになってもらいたい。宮城県という場所でどういう人材が求められているのか、その人材像の指標化を進めている。実践型のプログラムとして進めている。学生自身が「どういった企業がよいのか」という目利き力を持たせたい。そして企業側にも大卒者受け入れを促進するため、企業での課題設定をコーディネーターが行い、その場に学生を組み込むことで、学生には座学で学んだことを地域企業で実践し、振り返った上で大学に帰ってきてまた現場に出るという仕組みにしたい。*6持続的な取り組みにしていきたい。相互連携科目・プログラム、単位互換コア科目などを必修科目にしている。
  • 山崎氏:企業が学生と協働する際の良い点、注意点、大学の課題などを議論してもらいたい。
    • 八浪氏:学生が取材して記事を書く、ということはイメージしやすいが、その後の手直しで遅くまで残る。そして内容がよければ新聞記事に掲載される。これは学生にとって大きな達成感がある。アフターフォローとして、学生との関わりを継続することで、学生との関係性が構築される。正直、企業側にも疲弊する側面があるのは事実。学生のやる気に火を付けることが重要。学生に壁を超えさせることが重要。大学に望むのは「質の向上」である。人口減少、高齢者、過疎などの社会問題に対し、日本社会は人口の絶対数は減少していく。その中で人の質をいかに担保していくか。社会人基礎力。
    • 倉本氏:企業として大卒者との関わりが少ない。インターンシップに来た学生は一生懸命取り組んでいるので、その点ではいい面しか見えなかった。しかし、実際にそういった方が入社していくということは難しいかもしれないが、学生が持つ「たくさんの知恵」を借りていければと思う。WEB・ソーシャルメディアの発信など、若い人の感性を是非活用して欲しい。
    • 関屋氏:岩手県立大学実学系の学部を持っているので、そうした点はカバーできると思うが、COC+の際には横断する副専攻として地域に視点を置いてもらいたいということが目的にあった。また、学内でも地元就職率を上げるといっても、岩手で生まれて岩手で育った人を県内就職させる、純粋培養のみでいいのか?との意見もあった。しかし県内就職率がKPIに設定されている以上、学生に多様な経験をしてもらう環境を整備することが必要。
    • 相澤氏:COC申請の際、県との調整のために職員から現場に出て行った。学生を現場に出す前に職員がまずは前に出ないといけないのではないか。仮説を立ててチャレンジし、成果を見て改善するというサイクルを作る。また自分が関われる領域が何かにアンテナを張っておくことは重要ではないか。職員の場合は専門性として確固たるものを持っているわけではない。大学は新たな知を生み出す場所なので、それを活用するのは教員のみならず職員も同じであるべきではないか。
    • 三浦氏:大学職員との協働をする中で、大きく意識が変わった面がある。教員の専門性を活かすことが「大学の活用」だったが、職員との協働を行う中で職員にも地域に対する思いを持つ人がいることが分かったのは大きな収穫。
  • 質疑応答:
    • 既存部局の人間は、どのようにCOC+に関わっているのか。
      • 既にある取り組みの延長戦上。なので、既存部局の人間がCOC+推進室を兼務しているということがある。特別なことをやっている意識はない。
      • 元々、学生の就職活動というところで出口に近づくところで「みんな一緒にやりましょう」というのは難しい。プログラムを初年次においているのは、基盤整備を踏まえて専門科目には入っていってほしいという思い。既存部局との連携ではまだまだ進めないといけない部分があるので、こちらでも自分からご相談に伺いたいと思う。
  • まとめ(遠藤課長補佐)
    • 本来大学に求められてきている地域での大学の役割と、今まさに求められている役割の2つに分かれてきている。
    • ある意味、学生の質を担保するということで、地方創生に参画しないで地方創生に貢献するというアプローチ。そして現状の地域課題に対する大学しか持ち得ない専門知識を活用すること、そしてフットワークの軽さと調整能力を有する大学職員がコーディネーターとして活躍すること。
    • そしてそのための役割を担う職員をどのように活かしていくかを考えていくことが重要。本来の大学のあり方・機能・能力を十全に活かすこと、そのための取り組みを各大学が果たしていくことが求められるのではないか。

大学と地域の連携を通じた教育プログラムの構築にあたって、職員の目線で何が出来るのかということで、興味深くお話を聞きました。個人的に「まず職員が前に出ること」と「自分が関われる領域が何かにアンテナを張っておくこと」という点には多いに共感します。学生を育てる大学においては、職員自身が自律的に学ぶことがまず必要だと考えます。学習するコミュニティとしての大学が構築できなければ、学生のやる気に火を付けることは難しいです。教職学協働といいますが、その実現のためには、職員自身が個別にテーマを見つけて学んでいくことが大切ではないでしょうか。
基調講演ではSD義務化についても話題に上りましたが、単一大学での取り組みには限界があるとの指摘もありましたので、大学間の協働型SDモデルの再検討ができるといいのではないかと考えます。既にそうした取り組みも行われているので、*7参考に出来るのではないでしょうか。ただし、多様なメンバーを揃えたSDにはコーディネーター役が必要です。この点では、大学職員出身で高等教育研究を行っている研究者の助力を得ることが良いかと思います。私がすぐに思いつくのは、各種のSDイベントをコーディネートされている金沢大学基幹教育院助教の上畠洋佑さんです。*8あとは九州大学でQ-Linksの立ち上げを行い、今年の4月から東京工業大学に移られた田中岳さんが思い浮かびます。*9私個人はお二人が主催するワークショップに参加したことがありますが、とても勉強になった経験があります。
「地方創生と大学の役割」と題したシンポジウムでしたが、大学が果たすべき役割を担う職員の能力開発が重要であるとの認識を持ちました。このことを踏まえて、SD義務化にどのように対処していくのか、職員の適材適所での配置を踏まえた戦略的な人的資源管理戦略を構築することなど、引き続き社会から大学に求められる役割を果たすために、職員として何を追求していくべきなのかを考え続けていきたいと思います。

*1:「大学立地政策」の「規制緩和」のインパクト http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/51019/1/Ueyama.pdf

*2:認証評価制度の充実に向けて(審議まとめ) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2016/03/25/1368868_01.pdf

*3:大学設置基準等の一部を改正する省令の公布について(通知)27文科高第1186号 平成28年3月31日 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1369942.htm

*4:http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/chiikitf/5kai/siryou3.pdf

*5:オープンアクセス(Oa)とクリエイティブコモンズ http://www.slideshare.net/TasukuMizuno/oa-mizuno031116-59514669

*6:スパイラル・ラーニングのことかと思い増した http://www.fujitsu.com/jp/group/flm/phronesis/

*7:(ご案内)「第2回 Staff IR Forum(職員IRフォーラム)」について http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2016/04/20/082711

*8:上畠洋佑(金沢大学研究者情報) http://ridb.kanazawa-u.ac.jp/public/detail.php?id=4385&page=1&org1_cd=620199

*9:田中岳(東京工業大学教育革新センター) http://www.citl.titech.ac.jp/about-citl/staff/tanaka/

神田眞人氏による「今のままの大学では生き残れない」を読んで

high190です。
4月から新しい組織に移りまして、色々と変化が大きい時期に差し掛かっていました。そういった訳で、少しばかり忙しくしていましてブログの更新に時間を割くことが難しいこともあり、更新頻度が落ちてしまいました。これから徐々に書いていきたいと思います。

さて、大学関係のニュースも年度が替わって様々な種類が報じられている訳ですが、ここ最近で目にした記事で以下の内容に最も関心を持ったため取り上げたいと思います。


自らの問題として主体性をもって大学改革を推進する勢いが欠けていると感じます。世界はもちろん、国内も大きく変わっています。まず少子高齢化、そして人口減少。私たちの時代には18歳人口が250万人ぐらいいました。今は110万人、あと数十年で60万人とかつての4分の1になる。競争がなくなって質が低下するだけでなく、お客さんが激減するので、生涯教育、つまりおとなの学生や留学生を集めなくてはいけないのですが、教育、研究の中身が良くなければ、そもそも人は集まりません。大学の経営は成り立たなくなります。
大学は組織が硬直していて変わりにくいので、インセンティブとなる制度改正や予算配分をしていますが、国家財政が世界最悪ではおのずと限界があります。授業料だけでなく、寄付、外部との連携でもお金を集めなくてはいけない。それも教育、研究が良くなければ、誰もお金を出しません。日本の企業は研究開発に力を入れていますが、海外の大学やシリコンバレーにお金を出しても、日本の大学にはほとんど出しません。企業側の目利きに問題がないとは言いませんが、日本の大学が、魅力がないという烙印を押されているのも事実です。優秀な高校生も海外大学希望が著しく増えています。

(中略)

国公立、私立大学、それに専修学校も含めて1000校以上ある中で、どういう所が生き残っていくのか。統合も含め、ダイナミックに変えていかなければいけません。大学は特殊と言うが、特殊だから変わらなくてすむというのは間違っています。全ての業態が生き延びるために生まれ変わろうと闘っている中で、大学だけが変わらずに済むことはありえません。淘汰されるだけです。
現に、日本の大学の学位は卒業が楽なこともあって国際的な信頼性がとても低く、「価値がない」とまでいわれています。そうなれば日本に留学してくるのは、アジアの大学にも入れない底辺の学生という危険性も出てきます。

(中略)

主権国家の枠組みを含め、当然視してきた世界の秩序が壊れています。市場経済が格差を生み、民主主義も情報革命の影響もあって極めて異常な状態になっている。答えのない世界で、自分でしっかりと考えなくては生きていくのが難しい時代です。だからこそ、謙虚に古今東西書物や多様な人から学び、広い世界観をもち、妙なネットの一行に惑わされず、自分で吟味して、世界の一員として判断できる、そういう主権者になってほしいのです。それでないと民主主義を維持できません。我々は不完全な民主主義と市場経済以外に有効な選択肢を持っていないのです。未来社会を担う若者、育成の場としての大学に期待をかけています。

上記で取り上げられたように、神田氏は日本の大学に対する危機感を持っていることが分かります。神田氏は財務省の広報誌「ファイナンス」で、「超有識者場外ヒアリングシリーズ」という連載を持っておられますが、これまでも大学関係者との対談も多く行っています。*1 *2 *3 *4 *5神田氏は主計官として文教関係の予算配分を担当されていたこともあるため、国家的な観点で大学に対する危機感と期待感を持っていらっしゃるのだと思います。

強い文教、強い科学技術に向けて―客観的視座からの土俵設定

強い文教、強い科学技術に向けて―客観的視座からの土俵設定

超有識者達の洞察と示唆―強い文教、強い科学技術に向けて〈2〉

超有識者達の洞察と示唆―強い文教、強い科学技術に向けて〈2〉

さて、神田氏の意見の中で「古今東西書物」と「民主主義」というワードが出てきました。ここで意味していることはリベラルアーツ教育の充実化だと思いますが、具体的にはどのような内容を指しているのでしょうか。私なりに過去のブックマークを紐解いていたら、以下の記事を発掘しました。

上記の記事を私なりに搔い摘んでみると、コロンビアのコア・カリキュラム*6 *7では古典の読解を重視しており、科目の担当教員にはインセンティブがあること、講義の運営費用にはOB/OGからの多額の寄付が行われていることなどです。こういう記事を見ると、Alumniが機能しているなあと感激すら覚えるのですが、大学として重視すべきものを卒業生が間接的に参画することで守られているという部分には注目できると思います。恐らく日本で同様の取り組みをしているところは、ほとんど存在していないのでは?
最近、SGU関連の記事が話題になっていましたが、政府からの補助金に依存した状態で教育を行わざるを得ない体制では、コロンビア大学のようなコア・カリキュラムを半永続的に運用することは難しいだろうと思います。神田氏が言うように「今のままの大学では生き残れない」のですが、本当の意味で生き残っていくためには、「何を変えないか?」をもっと真剣に考える必要があります。*8
そのためにも、大学における財政面での独立性をいかに高めていくかが重要です。神田氏も言及していますが、コミュニティとしての教育の場を担保するための仕組み・仕掛けを大学が自律的に行いうるような政策面での誘導を期待したいものです。

*1:潮木守一先生との対談 http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201311e.pdf

*2:村井純先生との対談 http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201409f.pdf

*3:黒田壽二先生との対談 http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201502e.pdf

*4:五神真先生との対談 http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201510e.pdf

*5:天野郁夫先生との対談 http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201601f.pdf

*6:コンテンポラリー・シビリゼーション(Contemporary Civilization)、というそうです https://www.college.columbia.edu/core/conciv

*7:2015度のシラバス https://www.college.columbia.edu/core/sites/core/files/pages/CC%20Syllabus%202015-2016_0.pdf

*8:松宮慎治さんも,こんなブログを書いています。「補助金に頼らず、自分の頭で考える」http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2016/04/27/221509

不完全な組織の方が組織を超越する人材が出やすい、という仮説

high190です。

今日は引用文献などは無くて、high190の友人から聞いて面白いなと思った言葉をご紹介したいと思います。その友人は大学業界とは関係のない、日本を代表する企業で働く人です。
その人が言っていたことで印象に残ったことは「不完全な組織の方が組織を超越する人材が出やすい」ということです。

具体的にはどういうことなのか、と私が聞いてみたところ友人は「完成された組織では、組織の枠を飛び越えるような人材は出にくい。それは組織内で人材育成やキャリアパスなどの方向性が定まっていて、そういった組織では組織を飛び越えていけるようなイノベーティブな人材は出てくる余地が生まれにくいように思う」という回答でした。確かに規模の大きい組織であれば、そういった既存の価値を否定して新しい価値を提供できるような人材(ある意味において組織の「異端児」)は生まれにくいのかもしれません。昇進のために組織内の人々の行動は最適化され、新しいことや未踏の領域にチャレンジしようというインセンティブが働かないかも知れないかな、と思った次第です。

上記の意見を受けてhigh190が思ったことは「恵まれていない、うちの組織はダメだと思っている人にほどチャンスがあって、それを変えていけるのは自分のチャレンジ精神である」ということです。不完全な組織、いわゆる効率的な運営ができていない組織に身を置く人の方が、その中で最適化するための解を考えたりすることができます。今いる立場を嘆くのではなく、唯一の存在になることができるチャンスがあります。完成された組織=官僚制だと思いますが、これは誰がやっても回せるということを意味します。よって、不完全な組織であればあるほどチャレンジできる領域は広いのではないでしょうか。現在置かれている環境への不満ではなく、それがチャンスだと捉えられるのであれば、自分自身の能力開発にとっては朗報だとも言えるのかもしれません。