Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

東北大学PDプログラム「大学カリキュラムの構造と編成原理」に参加しました

high190です。
参加してからだいぶ日にちが空いてしまいましたが、4月29日に東北大学川内キャンパスにて開催された標記セミナーの参加記録を掲載します。以下の記録はhigh190が聴講した際に記録としてメモした内容になりますので、主観が入っていること、内容に誤りが含まれる可能性があることを予めご了承いただければと存じます。なお、当日の講演記録は東北大学PDP ONLINEで公開されていますので、併せてご確認下さい。*1


開会挨拶 東北大学大学教育支援センター長 羽田 貴史 教授

  • 大学におけるカリキュラム改革の議論の中で、教学マネジメントの重要性が指摘されているが、ナンバリング、クオーター制などの小道具を取り入れても、なかなかうまくいかない。やはり学生が学ぶ上でのカリキュラム設計・全体的な視点を持たないと小道具も生きてこない。その点で教養科目がコアになってくる。教養教育の歴史から現状までを吉田先生にお話いただく。カリキュラム改革を考える原理を是非学んでいっていただきたい。

「大学カリキュラムの構造と編成原理」早稲田大学教育・総合科学学術院 吉田 文 教授*2

  • はじめに
    • まず、アメリカの大学における教養教育の歴史的展開。
    • 日本の高等教育を考える上でアメリカはキーになる。日本の戦後教育でもアメリカ型教育はモデルになっている。
  • カリキュラムとは何か?
    • 初等中等教育では学習指導要領が定められている。理念・内容・方法について、大学カリキュラムは各大学の理念などを踏まえて編成することが必要とある。
    • 定義:教育の目的にしたがった内容・方法の順序・完了に関する計画(それを実施する組織構造=学習活動・経験の総体)※明示的なカリキュラム
    • hidden curriculum 受容する学生側の視点も必要:意図的ではなく、何らかの学習経験を積ませるためのもの ※この視点が非常に重要

1.リベラル・アーツの理念

  • 古典古代(ギリシア、ローマ)
  • 理念:自由市民をwell-rounded character,educated manに(理念的にはほとんど現在でも変わっていない)支配者たる自由市民は「欠けるところの無い総体」であるwell-roundedな人材を育てるのがリベラルアーツ。リベラル・アーツを受けた人間は、educatedとは人格特性、支配層として必要とされてきた。
  • 当時の学問大系を「欠けるところなく」教えるのがリベラルアーツ
    • 内容:自由七科(文法学・修辞学・論理学(弁証法)と算術・幾何学天文学・音楽)であった。当時の社会における全ての学問。文理を分けない。
  • ヨーロッパ中世の大学
    • 医・法・神学部の前段階の学芸学部、哲学部で自由七科、パリからオックスフォード、ケンブリッジ。当時はイスラム社会の方が学問的に進んでいた。地中海に大学が創られていき、後進国であったパリ・イギリス(オックスブリッジ)に引き継がれていく。※幅広い教育による人格形成、紳士養成という理念の継承
  • アメリカ植民地カレッジ

2.アメリカの植民地カレッジ

  • ハーバード・カレッジのカリキュラム
  • prescribed curriculum(選択がない必修のみ)聖職者の養成、少年の訓練
    • 午前中は暗唱、午後は討議。
    • 宿題が必ず課されていた。月・木:哲学、水:ギリシア語、火:ヘブライ語、金:修辞学、土:教理問答

3.古典語と近代科学の対立

  • 古典語中心のカリキュラムへの批判:近代科学、近代言語、学問の多様化
  • 3年制、not B.A.butB.S./B.P.(Bachelor of Science,Philosophy)
  • 礼拝時にリベラル・アーツの学生と同席不可 ※近代科学はリベラル・アーツより劣るものと考えられていた

4.自由選択制と配分必修制

  • 1869:エリオット(ハーバード大学学長)※40年近く学長を務める
    • 自由選択制(electives)の導入 多くの科目を開講して学生が選択履修*4
    • デパートメント制、ナンバリング、学年制➡履修制(こっちの方がうまく機能すると考えた)
      • ※実はうまく機能しなかった。学生はそこまで大人ではなかった
      • ※好きなものだけつまみ食い、体系的な学習にならない(ラーニング・アウトカムズの概念?)
  • 1909:ローウェル(エリオットの次の学長)
    • エリオットの改革の見直し
    • 配分履修制(distribution requirement)という発明(科目のカテゴリー、枠を決めておくという考え方、履修の範囲・順序を決めて、一定の自由度を持たせる)
      • general education vs. major = breadth vs. depth = distribution vs. concentration
      • カーネギー・ユニット*5
      • 単位制による授業科目の互換や累積加算が可能(いわゆる単位制、時間によって履修内容を交換できる。現在の単位制度の原型)学習時間による履修科目の交換可能制を担保する、併せて科目間のモジュール化が可能になった。"Credit transfer"

5.大学と一般教育(general education)

  • 専門教育が大学の中心、職業教育の台頭
    • リベラル・アーツは一般教育へ
  • 19c:カレッジから大学(university)へ
    • 1862:モリル法によるランド・グラント大学(連邦政府の土地を州政府に供与、州立大学、A&M*6テキサスA&M大学などはその名残
    • 一般教育はアメリカの特徴、ヨーロッパは一般教育を後期中等教育に落としていくが、アメリカでは前期2年・後期2年の課程を構築。※唯一の例外
  • 【学士課程と一般教育】
    • 学士課程:一般教育+専攻(major)+自由選択
    • 必修と選択、単位制とモジュール
  • 【組織】
    • デパートメント制、専攻・学位の責任単位(学科としての組織、現在に至る前の基本構造)
  • アメリカは西に行くほど州立大学が発展している。(フロンティア)東部はリベラル・アーツ、西部は職業教育という対比

6.幅広さと一貫性(breadth & coherence

  • 【一般教育の提供方法】
    • 学士課程は文理学部が中心(研究大学においては)
    • 多数のデパートメント
    • 専攻の科目の初級段階が一般教育の単位として履修可(g.e.科目として開講されているわけではない)
      • 多数の科目が羅列される、g.e.への責任は不明確
  • 【一般教育の履修方法】
    • 入学時に専門は未決定(まず文理学部に入る。3年時にメジャーが決まる)
      • ※日本でも少数の大学(東京大学の進学振り分け)が取り入れているが、多くは専門が決まっている。
    • 2年間で一般教育を履修しつつ、専攻を決定
    • 多数の科目から系統だって履修する事は容易ではない
      • 幅広さと一貫性(breadth & coherence)とどう両立させるか(必ず繰り返される議論)
      • デパートメント毎の戦略がある。アメリカの場合、学生数によって学科がスクラップアンドビルドされるので、科目の羅列になる。ここに権限をもってメスを入れる事はアメリカの大学でも困難

7.一般教育への批判と回復

  • 1920〜30’s:WWE後の一般教育運動
  • 1945〜50’s:WWE後の一般教育運動
    • 民主時代の市民の育成、政治的役割の強調
    • ハーバード大学のGeneral Education in a Free Society:
  • 1980〜90’s:マルチ・カルチュラリズム
    • canon批判(Dead White European Male)➡アメリカの多様性に反する理念ではないか、という批判
  • 多様な民族、多様な世界への視野の拡大(理念としては生きている)

8.戦後日本への導入

  • 1府県1大学:専門学部生による高等教育機関と準高等教育機関との統合(大学と旧制高校師範学校)※国立大学の例、単位制の導入
  • 4年制大学における2年間の一般教育(cf.アメリカ教育使節団の勧告)、単位制の導入
  • 【どの組織・教員が一般教育を担うか】:旧制高校文理学部)と師範学校(学芸学部)➡組織的な分断
    • リベラル・アーツ(全人の育成、非職業教育)への理解不足:低度の教育、全学部共通(12単位×3領域(配分必修制)+外国語+保健体育=48単位)
      • ※日本の大学が一般教育を誤解した結果
      • ※保健体育が入ったのは結核に対する意見(120単位に修められず、124単位になった。これは今でも引き継がれている)
      • ※不幸な出発。アメリカで文理学部のみに適用されていた一般教育を全学部に適用してしまった問題

9.マス化と教養部

  • <国立>
    • 1963:国立大学教養部の法制化(4年間で32大学)
    • 1964:国立大学の学科及び課程並びに講座及び科目に関する省令
      • ※一般教育の責任の所在の明確化、学部と異なる教養部➡教員身分の固定化(設置基準大綱化に繋がる)
      • ※文部省:第一次ベビーブーム世代とマス化の吸収装置(教養部と学部の学生増加に対する教員配置の違い)教養部法制化の裏には、増加する大学入学者数に対応して、半強制的に作らされた。(埼玉大学教養学部の歴史を参照*7*8
  • <私立>
    • 拡大期の非常勤依存(一般教育>学部)、見えない差別(一般教育と専門教育での専任比率に大きな差があった)
    • 高度経済成長期を踏まえて私学が拡大していく。
      • ※廉価な一般教育(その反面、このことによって日本の大学は数字上、大きく発展したとも言える)

10.教養部改革とその頓挫

11.大綱化と教養教育

  • <大綱化によって>
    • 大学設置基準上の「一般教育」の廃止
    • 教員間の差別の解消、全学出動体制
    • 教養教育・共通教育・全学教育…前専門の幅広い学習
  • <その後の変容>
    • 理念としての能力の涵養
      • 学習成果への要請とのかかわり
    • スキル化とリメディアル化の進行
      • 大学教育の準備教育の必要性(初年次、ICT、キャリアなど)
    • 組織統合する大学の登場
      • 集約によるコスト削減?(地方国立大学によく見られる)※これらを検討する可能性

12.日米の大学における類似点と差異点

  • 教養の獲得が理念的には言われるが、定義は多義的になっている
  • 学問が職業との結びつきを持っているものは、リベラル・アーツではない
    • プロフェッショナル・スクールがある分野はリベラル・アーツではない?
    • 職業との接続性を踏まえた議論
    • 配分必修制は、アメリカから取り入れられた概念。
    • 教員・学生にも一般教育を行うインセンティブがない
    • 一般教育は不要・不可欠の議論が混在し、カリキュラム上での位置づけをどのように考えていくかは、あまり議論されてこなかった
      • ※一般教育・教養教育をカリキュラム上、どのように位置づけるか

質疑応答

  • 社会学部で教務主任をしており、カリキュラム改革を担当している。大学カリキュラムの構造に関して、日本の大学におけるカリキュラム編成原理は語られなかった。まだ見えていないという批判も含まれているが、今後の方向性などをお聴かせいただきたい。
    • 日本の大学はある意味、非常に自由化している。設置基準大綱化以降は自由化してしまっていて、何がメインな形であるかはよく分かっていない。大綱化移行、教養教育の比率は下がったが、2000年ぐらいで下げ止まったように思う。一般教育・教養教育をテコ入れした大学もある。全学的なカリキュラムを作って、何をどのように組み合わせていくかという点で、各大学なりの考え方をもって編成している。非常に多様化しているが、今後どうなっていくかを考える時にコスト削減を踏まえつつ、他大学の実例を紹介いただくとよいのではないか。
  • 例えば、一般教育担当部局と、学部・研究科との協議が行われる体制は構築されてきているのか、それとも分断したままなのか。そういったコミュニケーションは取れているのか。また教養が混沌とした中で教員もよく理解できていない状況化で、学生にとっても「何のためにやるのか」が出てくる。その点で教員に意見がぶつけられてくる。
    • 国立大学の場合、教養部解体の後に○○センターができているが、学部間の壁を乗り越えるまでには至っていないのでは。専門学部の教員としては、早く専門科目を教えたいと思う。その擦り合わせは簡単ではない。アメリカの大学の場合、専攻毎に先修条件を設定している。そして人気の高い専攻にいこうと思えば一定の学修量と選抜が求められてくる。日本のように入学時点に専門が決まっているところと異なる点。
  • 大綱化以降の教養教育、スキル化の現状などを歴史を踏まえつつ個人的な意見はどのようなものを持っているか。
    • 大学進学率が5割を超えている中で、スキル化の議論が出てくるのは必要不可欠なのではないか。具体的には英語教育である。しかし、第二外国語を必修にしている大学は非常に少ない。また英語ではオーラル重視であるが、第二外国語をやらないことで、得られる知識が矮小化してしまう。スキルの修得には役立つが、社会・文化などのいわゆる「教養」を得られる機会を喪失するなどの影響も反面存在している。
  • リベラル・アーツの日本における定義は?学生の多寡で議論される面が無いか。
    • アメリカでも多義的な使い方をしている。学問体系としてリベラル・アーツではないが、リベラル・アーツ的な理念を組み込んで専門教育を教えるという言い方は、アメリカでもよくなされる。
  • カリキュラム改革に関して、日本学術会議の報告書などで指摘されているが、内容を中立的に、内容よりも結果という感じがある。幅広さは多少妥協して結果を求めることが大学としての方針を立てる事は望ましいのか?
    • ラーニングアウトカムズ、学士力や社会人基礎力に代表される"○○力"が設定され、そのパーセンテージを測ることは困難。個人が持っている力がどの程度伸びたかをどう見るか。例えば批判的思考力はインプットとアウトプットがイコールになるのだろうか。専門科目を並べただけでも能力が身に付けばそれでいい、という議論にもなりかねない。学問大系としての知識を教えること、その反面、スキルを活かすことを検討すべきでは。
  • 看護学部で教員をしているが、看護師に対する社会的要請は高まっていて、必要とされる能力を修得するためにカリキュラム化するとそれだけで相当数の単位数になってしまう。逆に大学が集中すべき領域を設定していくことも必要ではないかと考えるが、その点についてのコメントをいただきたい。
    • 今求められているのは、○○力(何かをやれば到達する力)と言われているが、文章を書く能力、ライティングスキルは基礎科目であるが、その改革に関してacross the curriculumという制度が80年代などにはあった。何単位必修ということではなく、教員毎に課題を課す事で専門毎に教員の指導(ティーチング・メソッド)を受けられるようにする方法もある。
  • 学士課程答申以後、学士課程での到達目標などで大学教育改革の中で、答申で言われている内容に関して、専門教育と教養教育のいずれを重視するかということなのか。
    • 答申では専門・教養という意見ではなく、どちらかというと学士号の位置づけを明確化する、4年間のシーケンスを明らかにすることが重要。日本学術会議が作っている参照基準は、学問分野毎に身につけるべき能力を提示している。日本ではシーケンスに対する議論をしてこなかったのだと思うので、その点に関してフォーカスしていくべきではないか。
    • OECDコンピテンシーに関して。中教審答申で決定するものは政策的な意見であるが、認知科学の知見が無いままに。カリキュラム自体が学者の専門性に依存した形になってきている。教養部が教育の内容面を議論することができるのが、アメリカの良い部分。教養の無い教員には教養教育はできない。*9

カリキュラムを巡る最近の議論としては、教学マネジメントの重要性が指摘され、あわせて高大接続改革でも3つのポリシーに基づくカリキュラム編成が求められるようになるなど、履修主義から修得主義への移行が進んできているように感じます。2016年3月に公表された3つのポリシーの策定・運用に関するガイドライン*10では、「学生の教育に関わる全ての教職員が三つのポリシーを共通理解し,連携して質の高い教育に取り組むことができるようにすることが重要」とした上で「教学マネジメントに関わる専門的職員の職務の確立・育成・配置」が必要という指摘もなされています。その他、学修成果のアセスメントなども今日の教学マネジメントで話題になる点です。*11
しかしながら、今回のセミナーに参加して気づいたことは、カリキュラムに関わる議論を理解するためには、そもそも大学がこれまで歩んできた歴史も踏まえた視点が必要であるということです。歴史を理解し、実際に教えられる内容にまで理解が及ばないとカリキュラムの全体像を理解することは困難だということですね。職員としてカリキュラムに関わるために、様々な知識を得ていくことが重要なのだと感じました。それにしても高度な内容の連続。私自身勉強になりましたが、この内容を消化するためにはまだまだ勉強が足りないことを痛感したセミナーでした。

*1:大学カリキュラムの構造と編成原理 http://www.ihe.tohoku.ac.jp/CPD/PDPonline/archive/detail.php?id=50

*2:http://researchmap.jp/read0179375/

*3:アンテベラム期のアメリカ高等教育史におけるイェール報告の位置 : トマス・クラップのカレッジ・カリキュラム論との比較を通して https://ci.nii.ac.jp/naid/120005464940

*4:20世紀前半におけるハーバード大学のカリキュラムの変遷−自由選択科目制から集中-配分方式へ−(福留2015) http://goo.gl/jvv6rs

*5:The Carnegie Unit: A Century-Old Standard in a Changing Education Landscape http://www.carnegiefoundation.org/resources/publications/carnegie-unit/

*6:ランド・グラント大学についての論文。参考になると思います。 「大学の地域にとっての有用性 : モリル法の制定とランドグラント大学としてのパデュー大学に関する考察」http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/handle/10466/11005

*7:教養部の形成と解体-教員の配属の視点から- http://www.zam.go.jp/n00/pdf/nc006006.pdf

*8:国立大学の学科及び課程並びに講座及び学科目に関する省令(昭和三十九年二月二十五日文部省令第三号) http://law.e-gov.go.jp/haishi/S39F03501000003.html

*9:以前にも引用していますが、コロンビア大学のコアカリキュラムについての記事が参考になります。http://d.hatena.ne.jp/adawho/20100205/p1 http://d.hatena.ne.jp/adawho/20100206/p1 http://d.hatena.ne.jp/adawho/20100211/p1

*10:「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン平成28年3月31日 大学教育部会) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1369248.htm

*11:高大接続の答申から考える大学の評価に関する人材ついて(大学アドミニストレーターを目指す大学職員のブログ) http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2014/12/23/094149

大学行政管理学会東北地区研究会・シンポジウム「地方創生と大学の役割」に参加しました

high190です。
5月21日(土)に東北学院大学で開催された標記のイベントに参加してきました。今年で大学行政管理学会は創立20周年を迎えるとのことで、今回は東北地区の記念イベントとして「地方創生と大学の役割」と題したシンポジウムが開催された次第です。
今回も参加した内容をまとめてみました。理解違いなどがある可能性がありますので、予めご了承下さい。


会場校挨拶:東北学院大学学長室長 阿部重樹氏

  • 地方創生が世間的に知られたのは、増田寛也氏の「地方消滅」という書籍ではないかと思う。
  • 女性の出産年齢の上昇、若年女性の社会的移動が地方自治体の消滅に繋がると指摘。地方の大学が少子化、地元出身者の県外流出などに対処するためには、地域社会との連携・信頼関係の構築が不可欠である。
  • COC事業の直前に、大学は地域の財産、地域は大学の財産ということで話をいただいたことを思い出す。この言葉の意味の重たさを最近考えている。そのことを踏まえると、今日の基調講演とパネルディスカッションが地方創生に大きく役立つと考える。

基調講演「我が国の地方創生政策の動向〜地方創生と大学の役割〜」
文部科学省高等教育局大学振興課 課長補佐 遠藤翼

大学の職員に対する期待が高まっている中で、こういった機会が得られて嬉しく思っている。平成18年に入省、10年目。科学技術政策に携わり、その後に初等中等教育局に異動。私学行政課では私学助成を担当した。その後に大臣官房を経験した後、高等教育局に来て、3つのポリシー、大学設置基準などを担当している。

1.法令の規定等から見る大学の目的・役割の変遷

  • 帝国大学令(明治19年)
  • 大学令(大正7年)
    • 国以外の設置形態が認められるように。「国家思想の涵養」
  • 学校教育法(昭和22年法律第26号)
  • 教育基本法(平成18年法律第120号)
    • 第7条 「社会の発展に寄与する」
  • 学校教育法(昭和22年法律第26号)
    • 第83条第2項 「大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。」
    • 歴史的にも大学を法令上で位置づけてきたが、求められるものが変化してきた。
  • 「平成12年度以降の高等教育の将来構想について」平成9年1月29日
    • 高等教育の機会均等
      • 国としては、収容力格差の結果として進学率に大きな格差が生じず、かつ、大学等に期待される地域貢献機能が各地域において確保されているという状況を目標。同時期に工場等制限法が撤廃*1
  • 「我が国の高等教育の将来像」平成17年1月28日
    • 地方における高等教育機関は、それぞれの特色を発揮した教育サービスの提供の面だけでなく、地域社会の知識・文化の中核として、また、次代に向けた地域活性化の拠点としての役割をも担っている。
  • 「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」平成24年8月28日
    • 大学は、個人が生涯にわたって知的な基礎に裏付けられた豊かな教養や知識、技術、技能を主体的に学修する機会を提供し、その地域に即したイノベーションの創出をリードする地域社会の核。
    • 地方自治体や地域社会は、地域の大学と連携し、その知的資源を積極的に活用することが期待

2.我が国の大学を取り巻く環境

  • 大学の直面する諸課題
    • 人口構造の変化と大学経営の影響
    • 国際化への対応の必要性
    • 地方創生
    • 産業構造の変化と大学に求められる役割の変容
      • 各種統計による現状の紹介、国際比較など
      • 最近、大学生の学修時間を文科省で調査したが、平均的に見ると学生ひとり当たりの学修時間は伸びていないのが実情
      • 大学進学率の地域間格差(東北地方は宮城県を除いて進学率が低い)
      • 居住地変更の3タイミング(大学進学、大学卒業・就職、リタイア後)
      • 人口流入の多い都道府県とそうではない都道府県の差が拡大傾向
      • その反面、大学・短大の自県進学率は上昇している
  • 地域課題解決に関する公開講座実施状況
    • 各大学で取り組みに差がある。しかし、地域課題解決型(地域リーダー育成、地域学など)は受講者数が多い
  • 地域貢献に対する大学の貢献の取組状況
    • 各大学で実施状況にグラデーションがあるので、各大学が持つ資源を踏まえて戦略的に公開講座等に取り組む必要性

3.高等教育政策の動向〜平成27年度末の法令改正を中心に〜

  • 3つのポリシー策定・公表に関する省令改正(AP,CP,DP)、ガイドライン策定済(自主的・自律的な3つの方針の策定と運用の参考指針)
    • 3つのポリシーを具体的に策定するにあたって、学部段階・学科段階など定め方はそれぞれの学校が戦略的に考えることの必要性
    • 法令上の根拠:学校教育法施行規則第165条の2
    • 学士課程教育は義務化、大学院はアドミッションポリシー以外は適用除外(大学側が想定する学修成果を飛び越える人材の育成を大学に期待しているため)
  • 認証評価制度に関する省令改正*2
    • 認証評価基準に3つのポリシー、内部質保証を追加
      • 特に内部質保証に重点を置いて評価する、自律的なPDCAサイクルの構築
      • 上記を実現するためには大学職員の能力向上が関係
  • スタッフ・ディベロップメントに関する省令改正*3
    • 大学職員の資質の維持・向上が必要
      • 単純に「研修をしなければならない」と規定しなかった理由を考えて欲しい
      • FDは目的を定めていないが、SDについては目的が定められている。
      • 各大学が研修を個別にやる時代ではない。共同型の各種研修を通じて自らの能力を高めていける職員。
      • 「その他必要な取組」この記述がポイント。研修の実施方針・計画の全学的な策定。
      • 当該条文の「職員」には、法令上の規定通り、教員・執行部・技術職員・事務職員を包括する。

4.地(知)の拠点としての大学

  • まち・ひと・しごと総合戦略(全体像)
    • 「地方大学等創生5カ年戦略」*4
      • 知の拠点としての地方大学強化プラン
      • 地元大学定着促進プラン
      • 地域人材育成プラン
  • COC+のねらい
    • 若者の地元定着率の向上や地域における雇用創出を推進する取組や、その地域が必要とする人材を育成するためのカリキュラムの構築・実施を支援
    • KPI、事業実施大学における卒業生の連携自治体内企業等への就職率、連携企業等の雇用創出者数
  • COC+における協働の重要性
    • COC+のスケジュール
      • 競争型資金として配分。事業実施年度毎に補助額は逓減し、最終的には共同事業体の大学・企業等が出していかなければ。
  • COC+選定委員長所見
    • 地域の自治体や企業等との課題を共有
    • 強固な共同関係
    • 地方創生に向けて高い成果が見込まれる
      • 学長の強いリーダーシップにより、全学一丸となって事業を実施
      • 大学等、自治体、企業が役割を分担(コストシェア)することでスケールメリットを活かした取組とすること
    • 熊本地震での学生ボランティア等の取組
      • 優れた取り組み。震災時のサポートステーションとして機能している例も

5.学生の定着と人材育成

  • 奨学金を活用した大学生等の地方定着
  • 実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化について
    • 大学体系の中に位置づけ、学位授与機関とすることを基本(「大学たる学位授与権を持つ」ということが重要なポイント)
    • 質の高い専門職業人養成のための教育
  • 大学における入学定員超過是正方策
    • 私学助成を全学不交付とする基準を厳格化。31年度まで段階的実施。
  • 職業実践力育成プログラム(BP)の事例
    • 岩手大学金沢大学(履修証明+地方創生)
    • 社会人の学び直しの場合、学位よりも国家資格取得にニーズ

質疑応答

  • 収容定員是正策を進めるとの話があったが、今後どのように考えているのか。
    • 資料以上のことはまだ検討していない段階。ただし、今後の私学の検討会議がスタートしているので、そちらの会議での議論経過を注視していただけると今後のあり方も見えやすくなるのではないか。
  • 経常費が削られていくと、新しい取組には競争的補助金に頼らざるをえない状況がある。その点についてはどうか。
    • 私学の収入は授業料収入に大きくよっている。補助金収入は平均1割程度であるので、あくまでも授業料収入の確保をしながら、ということになる。今後は適正な運営をどのように行っていくかが重要。今後は大学間でのリソースの共有、大学間統合、学部等の設置廃止なども視野に入れていただくなどのことを文科省でも視野に入れている。

大学制度創設からの流れについて、分かりやすい説明があり、その上で現在の地方創生政策と大学の役割は何であるのかについての解説でした。
個人的には、歴史的経緯を踏まえた高等教育制度の理解は、政策的な動向を踏まえて自学のあり方を検討するため、大学のマネジメントに必須の知識であると再確認しました。そういった意味でも、こうした各種講演会で発表された資料を公表していくことも、大学行政管理学会に求めたいと思います。(もちろん著作権などのこともありますが、そのためにクリエイティブ・コモンズなんかも整備されているので)せっかくの講演なので、その内容を広く公表していった方が、色々な人の目に触れていいのではと。*5

パネルディスカッション「地方創生と大学の役割」

  • パネリスト
  • 松崎氏:終わった後に「いい話を聞いた」ではなく、「具体的に取り組むこと」を検討できるように。常日頃取り組んでいること、考えていることを順番にお話いただきたい。
    • 三浦氏:ものづくり産業の人材育成・定着について担当している。今日この席にいるのは、担当部署がCOC+を担当しているから。構想書をじっくり読むと、「様々な関係機関との連携」という文言が出てくる。県で進めるものづくり人材育成確保対策事業では、初等教育から高等教育までに施策を実施。しかし、大学生向けの事業は都道府県で少ないのではないか?という意識。その他、教育委員会との連携体制などもしやすい。しかし、大学に関しては自治体の関与は少なく大学にお任せしている実情。その点で県としても大学との連携を進めていきたい。県側からすると大学との連携というと、審議会の委員への就任、研究会の研究主査などへの招聘などを想定する。
      • 事業開始前に、東北学院大学の相澤氏と議論すると、大学の職員も様々な面で地域連携を検討されていて驚いた。こうした職員となら協働していけると感じ、職員も積極的に表に出てきてもらいたい。
      • 大学職員と議論する中での共通点などは何だったか?
      • 行政の立場からすると、教員と話すと話を聞くことが主体になる。職員とだと同じ立場として議論できる部分が共感できた。
    • 八浪氏:震災後、国内外から様々な支援をしていただいた。今年で創立120周年を迎えるにあたって、イベントを企画していた。今回はデジタル事業部時代の取組が中心になるが、震災以降に始まった学生と新聞社との協働事業。震災後の情報ボランティア(学生育成と社会貢献のプログラム)震災時の混乱などを踏まえてスタートし、現在も続いている。ちょうど震災時にはtwitter,facebookなどのソーシャルメディアが興隆してきた時代であり、その時に始めた。学生の目線を活かした取組。中身をどう高め、深化させるかに課題があった。
      • 「記者と駆けるインターン」マスコミ志望者とのマッチング。
    • 倉本氏:たらこ製造の会社。水産加工場の食育活動、保育施設結いのいえ。地域創生に関する取り組み。東日本大震災からの復興に関する取り組み。地域との協働によって復興の推進役に。東北学院大学との関わりは、2014年からの復興支援インターンシップを受け入れた。その際にボランティアステーション・教員・関係者との協働。地域で一生懸命事業を行う企業と大学との連携。
    • 関屋氏:高等教育推進センターでFD・SD、大学改革などを担当。昨年からCOC+推進室の担当になった。昨年度にCOC+を取得した公立大学は3校。事業スキームの説明。連携校は岩手県内大学が中心。東京都から杏林大学が参加。あわせて協力校として東京海洋大学横浜国立大学首都大学東京北里大学慶応義塾大学システムデザイン研究科がある。
      • H26の地元就職率は45%だが、それを事業最終年度のH31には55%に引き上げることを計画としている。COC申請では岩手大学が先行していたが、COC+の申請時に調整して、岩手県立大学も参加校として加入することになった。
    • 相澤氏:参加大学12校で7つの部会を設置している。県内就職率の10%向上が目標であるが、就職する学生がハッピーになってもらいたい。宮城県という場所でどういう人材が求められているのか、その人材像の指標化を進めている。実践型のプログラムとして進めている。学生自身が「どういった企業がよいのか」という目利き力を持たせたい。そして企業側にも大卒者受け入れを促進するため、企業での課題設定をコーディネーターが行い、その場に学生を組み込むことで、学生には座学で学んだことを地域企業で実践し、振り返った上で大学に帰ってきてまた現場に出るという仕組みにしたい。*6持続的な取り組みにしていきたい。相互連携科目・プログラム、単位互換コア科目などを必修科目にしている。
  • 山崎氏:企業が学生と協働する際の良い点、注意点、大学の課題などを議論してもらいたい。
    • 八浪氏:学生が取材して記事を書く、ということはイメージしやすいが、その後の手直しで遅くまで残る。そして内容がよければ新聞記事に掲載される。これは学生にとって大きな達成感がある。アフターフォローとして、学生との関わりを継続することで、学生との関係性が構築される。正直、企業側にも疲弊する側面があるのは事実。学生のやる気に火を付けることが重要。学生に壁を超えさせることが重要。大学に望むのは「質の向上」である。人口減少、高齢者、過疎などの社会問題に対し、日本社会は人口の絶対数は減少していく。その中で人の質をいかに担保していくか。社会人基礎力。
    • 倉本氏:企業として大卒者との関わりが少ない。インターンシップに来た学生は一生懸命取り組んでいるので、その点ではいい面しか見えなかった。しかし、実際にそういった方が入社していくということは難しいかもしれないが、学生が持つ「たくさんの知恵」を借りていければと思う。WEB・ソーシャルメディアの発信など、若い人の感性を是非活用して欲しい。
    • 関屋氏:岩手県立大学実学系の学部を持っているので、そうした点はカバーできると思うが、COC+の際には横断する副専攻として地域に視点を置いてもらいたいということが目的にあった。また、学内でも地元就職率を上げるといっても、岩手で生まれて岩手で育った人を県内就職させる、純粋培養のみでいいのか?との意見もあった。しかし県内就職率がKPIに設定されている以上、学生に多様な経験をしてもらう環境を整備することが必要。
    • 相澤氏:COC申請の際、県との調整のために職員から現場に出て行った。学生を現場に出す前に職員がまずは前に出ないといけないのではないか。仮説を立ててチャレンジし、成果を見て改善するというサイクルを作る。また自分が関われる領域が何かにアンテナを張っておくことは重要ではないか。職員の場合は専門性として確固たるものを持っているわけではない。大学は新たな知を生み出す場所なので、それを活用するのは教員のみならず職員も同じであるべきではないか。
    • 三浦氏:大学職員との協働をする中で、大きく意識が変わった面がある。教員の専門性を活かすことが「大学の活用」だったが、職員との協働を行う中で職員にも地域に対する思いを持つ人がいることが分かったのは大きな収穫。
  • 質疑応答:
    • 既存部局の人間は、どのようにCOC+に関わっているのか。
      • 既にある取り組みの延長戦上。なので、既存部局の人間がCOC+推進室を兼務しているということがある。特別なことをやっている意識はない。
      • 元々、学生の就職活動というところで出口に近づくところで「みんな一緒にやりましょう」というのは難しい。プログラムを初年次においているのは、基盤整備を踏まえて専門科目には入っていってほしいという思い。既存部局との連携ではまだまだ進めないといけない部分があるので、こちらでも自分からご相談に伺いたいと思う。
  • まとめ(遠藤課長補佐)
    • 本来大学に求められてきている地域での大学の役割と、今まさに求められている役割の2つに分かれてきている。
    • ある意味、学生の質を担保するということで、地方創生に参画しないで地方創生に貢献するというアプローチ。そして現状の地域課題に対する大学しか持ち得ない専門知識を活用すること、そしてフットワークの軽さと調整能力を有する大学職員がコーディネーターとして活躍すること。
    • そしてそのための役割を担う職員をどのように活かしていくかを考えていくことが重要。本来の大学のあり方・機能・能力を十全に活かすこと、そのための取り組みを各大学が果たしていくことが求められるのではないか。

大学と地域の連携を通じた教育プログラムの構築にあたって、職員の目線で何が出来るのかということで、興味深くお話を聞きました。個人的に「まず職員が前に出ること」と「自分が関われる領域が何かにアンテナを張っておくこと」という点には多いに共感します。学生を育てる大学においては、職員自身が自律的に学ぶことがまず必要だと考えます。学習するコミュニティとしての大学が構築できなければ、学生のやる気に火を付けることは難しいです。教職学協働といいますが、その実現のためには、職員自身が個別にテーマを見つけて学んでいくことが大切ではないでしょうか。
基調講演ではSD義務化についても話題に上りましたが、単一大学での取り組みには限界があるとの指摘もありましたので、大学間の協働型SDモデルの再検討ができるといいのではないかと考えます。既にそうした取り組みも行われているので、*7参考に出来るのではないでしょうか。ただし、多様なメンバーを揃えたSDにはコーディネーター役が必要です。この点では、大学職員出身で高等教育研究を行っている研究者の助力を得ることが良いかと思います。私がすぐに思いつくのは、各種のSDイベントをコーディネートされている金沢大学基幹教育院助教の上畠洋佑さんです。*8あとは九州大学でQ-Linksの立ち上げを行い、今年の4月から東京工業大学に移られた田中岳さんが思い浮かびます。*9私個人はお二人が主催するワークショップに参加したことがありますが、とても勉強になった経験があります。
「地方創生と大学の役割」と題したシンポジウムでしたが、大学が果たすべき役割を担う職員の能力開発が重要であるとの認識を持ちました。このことを踏まえて、SD義務化にどのように対処していくのか、職員の適材適所での配置を踏まえた戦略的な人的資源管理戦略を構築することなど、引き続き社会から大学に求められる役割を果たすために、職員として何を追求していくべきなのかを考え続けていきたいと思います。

*1:「大学立地政策」の「規制緩和」のインパクト http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/51019/1/Ueyama.pdf

*2:認証評価制度の充実に向けて(審議まとめ) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2016/03/25/1368868_01.pdf

*3:大学設置基準等の一部を改正する省令の公布について(通知)27文科高第1186号 平成28年3月31日 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1369942.htm

*4:http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/chiikitf/5kai/siryou3.pdf

*5:オープンアクセス(Oa)とクリエイティブコモンズ http://www.slideshare.net/TasukuMizuno/oa-mizuno031116-59514669

*6:スパイラル・ラーニングのことかと思い増した http://www.fujitsu.com/jp/group/flm/phronesis/

*7:(ご案内)「第2回 Staff IR Forum(職員IRフォーラム)」について http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2016/04/20/082711

*8:上畠洋佑(金沢大学研究者情報) http://ridb.kanazawa-u.ac.jp/public/detail.php?id=4385&page=1&org1_cd=620199

*9:田中岳(東京工業大学教育革新センター) http://www.citl.titech.ac.jp/about-citl/staff/tanaka/

神田眞人氏による「今のままの大学では生き残れない」を読んで

high190です。
4月から新しい組織に移りまして、色々と変化が大きい時期に差し掛かっていました。そういった訳で、少しばかり忙しくしていましてブログの更新に時間を割くことが難しいこともあり、更新頻度が落ちてしまいました。これから徐々に書いていきたいと思います。

さて、大学関係のニュースも年度が替わって様々な種類が報じられている訳ですが、ここ最近で目にした記事で以下の内容に最も関心を持ったため取り上げたいと思います。


自らの問題として主体性をもって大学改革を推進する勢いが欠けていると感じます。世界はもちろん、国内も大きく変わっています。まず少子高齢化、そして人口減少。私たちの時代には18歳人口が250万人ぐらいいました。今は110万人、あと数十年で60万人とかつての4分の1になる。競争がなくなって質が低下するだけでなく、お客さんが激減するので、生涯教育、つまりおとなの学生や留学生を集めなくてはいけないのですが、教育、研究の中身が良くなければ、そもそも人は集まりません。大学の経営は成り立たなくなります。
大学は組織が硬直していて変わりにくいので、インセンティブとなる制度改正や予算配分をしていますが、国家財政が世界最悪ではおのずと限界があります。授業料だけでなく、寄付、外部との連携でもお金を集めなくてはいけない。それも教育、研究が良くなければ、誰もお金を出しません。日本の企業は研究開発に力を入れていますが、海外の大学やシリコンバレーにお金を出しても、日本の大学にはほとんど出しません。企業側の目利きに問題がないとは言いませんが、日本の大学が、魅力がないという烙印を押されているのも事実です。優秀な高校生も海外大学希望が著しく増えています。

(中略)

国公立、私立大学、それに専修学校も含めて1000校以上ある中で、どういう所が生き残っていくのか。統合も含め、ダイナミックに変えていかなければいけません。大学は特殊と言うが、特殊だから変わらなくてすむというのは間違っています。全ての業態が生き延びるために生まれ変わろうと闘っている中で、大学だけが変わらずに済むことはありえません。淘汰されるだけです。
現に、日本の大学の学位は卒業が楽なこともあって国際的な信頼性がとても低く、「価値がない」とまでいわれています。そうなれば日本に留学してくるのは、アジアの大学にも入れない底辺の学生という危険性も出てきます。

(中略)

主権国家の枠組みを含め、当然視してきた世界の秩序が壊れています。市場経済が格差を生み、民主主義も情報革命の影響もあって極めて異常な状態になっている。答えのない世界で、自分でしっかりと考えなくては生きていくのが難しい時代です。だからこそ、謙虚に古今東西書物や多様な人から学び、広い世界観をもち、妙なネットの一行に惑わされず、自分で吟味して、世界の一員として判断できる、そういう主権者になってほしいのです。それでないと民主主義を維持できません。我々は不完全な民主主義と市場経済以外に有効な選択肢を持っていないのです。未来社会を担う若者、育成の場としての大学に期待をかけています。

上記で取り上げられたように、神田氏は日本の大学に対する危機感を持っていることが分かります。神田氏は財務省の広報誌「ファイナンス」で、「超有識者場外ヒアリングシリーズ」という連載を持っておられますが、これまでも大学関係者との対談も多く行っています。*1 *2 *3 *4 *5神田氏は主計官として文教関係の予算配分を担当されていたこともあるため、国家的な観点で大学に対する危機感と期待感を持っていらっしゃるのだと思います。

強い文教、強い科学技術に向けて―客観的視座からの土俵設定

強い文教、強い科学技術に向けて―客観的視座からの土俵設定

超有識者達の洞察と示唆―強い文教、強い科学技術に向けて〈2〉

超有識者達の洞察と示唆―強い文教、強い科学技術に向けて〈2〉

さて、神田氏の意見の中で「古今東西書物」と「民主主義」というワードが出てきました。ここで意味していることはリベラルアーツ教育の充実化だと思いますが、具体的にはどのような内容を指しているのでしょうか。私なりに過去のブックマークを紐解いていたら、以下の記事を発掘しました。

上記の記事を私なりに搔い摘んでみると、コロンビアのコア・カリキュラム*6 *7では古典の読解を重視しており、科目の担当教員にはインセンティブがあること、講義の運営費用にはOB/OGからの多額の寄付が行われていることなどです。こういう記事を見ると、Alumniが機能しているなあと感激すら覚えるのですが、大学として重視すべきものを卒業生が間接的に参画することで守られているという部分には注目できると思います。恐らく日本で同様の取り組みをしているところは、ほとんど存在していないのでは?
最近、SGU関連の記事が話題になっていましたが、政府からの補助金に依存した状態で教育を行わざるを得ない体制では、コロンビア大学のようなコア・カリキュラムを半永続的に運用することは難しいだろうと思います。神田氏が言うように「今のままの大学では生き残れない」のですが、本当の意味で生き残っていくためには、「何を変えないか?」をもっと真剣に考える必要があります。*8
そのためにも、大学における財政面での独立性をいかに高めていくかが重要です。神田氏も言及していますが、コミュニティとしての教育の場を担保するための仕組み・仕掛けを大学が自律的に行いうるような政策面での誘導を期待したいものです。

*1:潮木守一先生との対談 http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201311e.pdf

*2:村井純先生との対談 http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201409f.pdf

*3:黒田壽二先生との対談 http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201502e.pdf

*4:五神真先生との対談 http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201510e.pdf

*5:天野郁夫先生との対談 http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201601f.pdf

*6:コンテンポラリー・シビリゼーション(Contemporary Civilization)、というそうです https://www.college.columbia.edu/core/conciv

*7:2015度のシラバス https://www.college.columbia.edu/core/sites/core/files/pages/CC%20Syllabus%202015-2016_0.pdf

*8:松宮慎治さんも,こんなブログを書いています。「補助金に頼らず、自分の頭で考える」http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2016/04/27/221509

不完全な組織の方が組織を超越する人材が出やすい、という仮説

high190です。

今日は引用文献などは無くて、high190の友人から聞いて面白いなと思った言葉をご紹介したいと思います。その友人は大学業界とは関係のない、日本を代表する企業で働く人です。
その人が言っていたことで印象に残ったことは「不完全な組織の方が組織を超越する人材が出やすい」ということです。

具体的にはどういうことなのか、と私が聞いてみたところ友人は「完成された組織では、組織の枠を飛び越えるような人材は出にくい。それは組織内で人材育成やキャリアパスなどの方向性が定まっていて、そういった組織では組織を飛び越えていけるようなイノベーティブな人材は出てくる余地が生まれにくいように思う」という回答でした。確かに規模の大きい組織であれば、そういった既存の価値を否定して新しい価値を提供できるような人材(ある意味において組織の「異端児」)は生まれにくいのかもしれません。昇進のために組織内の人々の行動は最適化され、新しいことや未踏の領域にチャレンジしようというインセンティブが働かないかも知れないかな、と思った次第です。

上記の意見を受けてhigh190が思ったことは「恵まれていない、うちの組織はダメだと思っている人にほどチャンスがあって、それを変えていけるのは自分のチャレンジ精神である」ということです。不完全な組織、いわゆる効率的な運営ができていない組織に身を置く人の方が、その中で最適化するための解を考えたりすることができます。今いる立場を嘆くのではなく、唯一の存在になることができるチャンスがあります。完成された組織=官僚制だと思いますが、これは誰がやっても回せるということを意味します。よって、不完全な組織であればあるほどチャレンジできる領域は広いのではないでしょうか。現在置かれている環境への不満ではなく、それがチャンスだと捉えられるのであれば、自分自身の能力開発にとっては朗報だとも言えるのかもしれません。

京都で開催された高等教育研究会・2015年度大学職員フォーラムに参加しました

high190です。
遅くなりましたが今年もよろしくお願いいたします。何かと変化の大きい年になりそうですが、今年も1年自己研鑽のためになるべく多くの記事を書けるように頑張りたいと思います。
今回も拝聴した内容について、簡単に所感をまとめてみましたが、理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。


  • 主催者あいさつ:高等教育研究会・大学職員フォーラム世話人 代表 三上宏平氏立命館大学
  • フォーラムの開催趣旨・進行について:コーディネーター 中元崇氏(京都大学医学研究科教務・学生支援室)

基調講演『専門的職員』、『高度専門職』を巡る検討経緯と日本の大学職員の『専門性』 菊池芳明氏(横浜市立大学

  • これまで日本においては、「大学職員」のあり方を考える際に、「大学教員」との対比において考えてきている。
    • なお、日本型の雇用について、独立行政法人労働政策研究・研修機構濱口桂一郎*1は、メンバーシップ型の雇用からジョブ型雇用への移行に関する意見を発信している。*2
    • 例えば、アメリカの企業において、不要な部門が発生した場合はレイオフで対処するが、メンバーシップ型の雇用制度を持つ組織においては、制度の維持が最大の目的になる。
    • 異動・昇進についても日本独特の雇用慣行。ある意味「非常にうまくできてしまった」制度ではないか。
  • 大学に置き換えて考えると、職員はメンバーシップ型雇用で、教員はジョブ型雇用(極めて高度の専門性を有する)である。
    • 雇用形態が大きく異なる職種から日本の大学は構成されている。職員であってもアメリカはジョブ型。(職員と教員の関係を対比させると非常に異なる働き方である事が分かる)
  • 日経連の提言「能力主義管理・その理論と実践(1969)
    • 職能資格制度の活用。(軍隊における階級に相当)評価は顕在能力を中心にするが、潜在能力にも着目
    • ジョブローテーションを伴うメンバーシップ型人材の「職務遂行能力」は、どの程度の「専門性」を獲得できるのか?
    • あるいは、必要なのは一時的なジョブローテーションの範囲で獲得可能な専門性なのか?「専門性」の敷居をどの程度に設定するか?
    • 民間企業においても、「専門役」などの職位を運用しているが、恐らくは機能していない。ジョブローテーションでの職務遂行能力はあまり向上しない事を示唆しているのでは。
  • 大学教育部会での専門的職員の議論についての意見交換
    • 専門職についての議論。アメリカにおける高度専門職の位置づけ。
    • 意見交換に関するブレがある。教員と職員を包括するか、職員のみを独立させるのか。雇用上の処遇をどうするのか・・・など
      • 関西国際大学の濱名先生「高度専門職ではなく、大学運営職に近い」
      • 浦野委員の発言「企業では普通の総合職が行っていることを高度専門職に位置づけるのか?」という意見
    • 結論的には次期の中教審での審議に持ち越される事になった。第8期の大学教育部会では、3つのポリシーが最優先課題なので、あまり専門的職員に関する議論はなされていない。
      • ガバナンス改革審議まとめでは、「高度専門職」と「事務職員の高度化」を分けていたが、それを一緒にしてしまった事が問題。
      • 事務職員をベースとするかのような「専門的職員」は、教員に近い「高度なジョブ型」の専門家を包括、育成できるか?教員に近い高度な専門家集団は、現在の経営環境で確保できるか。
      • 事務職員と別に高度な専門家を第3の職種として設定した場合、経営者と人事部門の「スペシャリスト化」を伴わずに制度設計と円滑な運営が可能なのか。教員と事務職員の身分差が存在する(という認識)

メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行の観点から今後の大学職員のあり方を考えることは、以前から関心を持っていた点なので興味深く拝聴しました。菊池さんの高度専門職に関する論考は、他のWEBメディアでも読む事が出来ますので、併せてご覧いただければと思います。*3 *4 *5
また、アメリカの大学職員との比較について何度か取り上げられていましたが、以前に拝聴したLEAP参加者の方の研修報告*6でも「アメリカの大学はジョブディスクリプションが明確。アメリカには「人事異動」の概念がない。公募に応募して職を変えるというイメージ。教員もAdministrationに専念する人がいる。」というコメントがあったように、ジョブ型雇用の導入に向けては"ジョブディスクリプションの整備状況"という点がひとつの目安になります。

話題提供(1)天野絵里子氏(京都大学学術研究支援室)

  • 自己紹介
    • 元々は大学の職員。京大の図書館で勤務。2014年に京都大学学術研究支援室特定専門業務職員(URA)になった。
    • 特定専門業務職員の定義:特定専門業務職員は、特定の専門的業務に従事する。自分自身の雇用形態は時間管理。年俸制なので退職金が無く、任期がある。
    • 特定職員:特定職員は、高度な専門的知識及び豊富な実務経験を必要とする専門的業務に従事する これと比べるとURAはぼんやり
  • URAを設置する政策的背景
    • 研究者の時間的ゆとりを作る、博士人材のキャリパス的な部分を作るための役割
    • 博士を取ってすぐの人はあまり採用されない。博士学位+α。ぶっちゃけ全員が博士持ちではない。学士のみの人もいる。
  • URAとは?
    • 文部科学省の2つの政策によって整備されてきた。リサーチアドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備。
    • 専ら研究を行う職とは別、単に研究に関する行政手続きを行う訳ではない。研究大学評価促進事業。研究力強化を遂行する役目。
  • URAの業務
    • 想定されるURA関連業務(スキル標準策定)
    • プレアワード(研究戦略・企画)➡ポストアワード(運営・管理業務)
    • 企画支援・運営支援・広報支援・国際部門
    • どういう人がURAになったか。上記事業で採用されたのは251人いた。その他を含めると700人ぐらい。どういう人がなっているか:研究職が1番、事務系職員が2番。
  • 京都大学のURA
    • 第1フェーズで「学術研究支援室」を設置。
    • 学術研究支援室URA大幅増員+4部門性の導入
    • URAネットワークは京都大学内でも有機的に結びついている。入れ替わりも激しい。来年から学術研究支援室とURAなんとか室と統合される。
    • 組織・制度の壁を超えることもひとつの目標
    • 学内限定の公募型資金情報サイト、科研費書類の書き方(非売品)
    • KURA HOURの企画運営
    • URAのキャリアパス:事務職員・教員と人事交流をしながら、最終的には理事・副学長など大学運営職を目指す(どうなるか分からないが)
    • 業務はディスカッションをベースに行っている
  • 職員からURAの接続
    • 九州大学の出向から京都大学にURAとして戻るにあたって、知識の棚卸しをした。九州大学に出向している際、戻る時にどこに行こうか迷った部分もある。
      • 基盤:専門分野、学術情報、ICT、オープンアクセス
      • 思い:大学がフィールド研究支援
      • 経験:ネットワーキング、know who
      • 戦略的:仕組みづくり、業務の効率化
    • やってきたこととやりたいことを繋げる
      • 職域レベル:URAの専門性はまだ定まっていない
      • 組織レベル:組織の中でまだ定着していない
      • 個人レベル:目的は共有(新しい事が出来そう)
  • 「高度専門職」「専門性」に対する不安がある?
    • 自分の専門性に対する自身のゆらぎ
    • 将来の不確実性
    • 職域・組織・個人の枠組みで考えてみる
  • 現代の専門職・専門性
    • ひとつの課題に対して、複数の専門職が協働しながら取り組む。専門性や思いは重なり合っており、境界はあいまいになってきている
  • 組織のレベル
    • 大学のミッション、中期計画・中期目標
    • 人事計画も上記に基づいて行われなければならない。内発的動機づけ。(大切だがあまり議論されていない)
    • 異動・配属・キャリアパス・昇進、処遇給与福利厚生・評価。研修・一貫している明示されている人的資源管理
  • 大学のミッションを中心におき、専門性は個々に内在している?
    • 図書館職員の専門性はGoogleによって脅かされてきた(情報検索が大衆の手に委ねられるようになった)
  • 革新に繋がる大学職員の知識
    • 共通のミッションに向けて
    • 越境者としてのURAに期待されること
      • 人をつなぐコミュニケーション力がある事
      • 状況に応じた適切な表現が出来る人
      • 新しい仕事に挑戦しようとする人
      • 理想と現実
      • 越境するためには境界を強く意識しておく必要がある
      • 未踏領域への挑戦(これがURA専門職)

天野さんのことは以前から存じ上げていましたが、まだ実際にお会いした事が無かったので、お会いできた事自体が嬉しかったです。URAの役割・専門性などについて、まさに高度専門職として働いている方の発表ということで、内容面でも非常に充実したものでした。未踏領域への挑戦、今後の技術革新(特に人工知能)で専門性が大きく脅かされることなど、事務職員として今後どのように専門性を持って仕事をしていくかという点で重要な示唆がたくさん含まれていたと思います。
話題の中で出てきた特定業務専門職員・特定職員といった職制の業務内容・定義については、国立大学法人京都大学特定有期雇用教職員就業規則に詳細が定められています。

話題提供(2)小野勝士氏(龍谷大学文学部事務課)

  • 自己紹介
    • 関西学院大学法学研究科博士前期課程を修了し、龍谷大学に入職。経験部署は教務・法人だが、教務畑が長く、学部事務室勤務。
    • 最初は教室調整の業務を担当。他大学出身者だったので何も知らない中で担当する大変さと面白さを感じた。法人では財務部経理課にて資産運用業務を担当した。
    • これまで、教職課程に関する業務(教員免許業務)を専門的に行ってきた。教職課程は非常に多岐にわたる法規を取り扱うため、法律に関する知識が求められる。業務外で活動する機会が多い。2014年で年間約30日、2015年は16日。全て休暇を取って参加。
    • 上記の専門性を職場で活かす機会としては、学部長会にて第2期中期計画アクションプランについて、関係資料を作成し、説明を行っている。大学執行部の元におかれた時限委員会に委員長指名で参加。
  • 教職課程事務について
    • 教員免許の分野は実は体系だった本がない。大学の教員免許業務Q&A、課程認定申請の手引き−解説書−などを執筆。今後はSYNAPSEにて連載を担当の予定。
  • なぜ関わり続けているのか。
    • 2003年末に現行法での初めての免許状取得者を出した。
      • 今まで誰も経験した事が無いことなので、何もかもが分からない状況であった
      • そういった中で全国で大学のミスで免許状を出せない事例が数件発生した
      • 非常に危うい状況であることを認識
      • 異動しても経験をつないでいかないと危うい状況になる
      • 業務外であっても関わり続けた
      • 結果として詳しくなった
    • 新法の後も細かいマイナーチェンジは行われており、そういった改正に関しても継続的に注視していかないといけない。
  • 専門性に必要なもの
    • 法令を読むことを苦にしないこと(法学部出身者か、法学分野の修士号保持者)
    • 勉強好きであること
    • 法令改正等が頻繁にあり、常に情勢は変化している。自分から知識を得たいと思い学外の勉強会に自発的に参加して積極的に情報を収集できるかどうかが大事なポイントになる。(※学部時代に立法技術をゼミで学んだ)
  • 龍谷大学の職員人事制度
    • 資格
    • 資格に関するフィードバック面談内容確認シート*7
      • 優れていた点
      • 改善点、育成点
    • 専門性に必要な能力開発
      • 教員免許業務は教務業務の一分野に過ぎない。教務事務の本筋の部分を経験した上で担当するのが望ましいのでは。
      • 大学運営全体の中(財政面、教学面の両方の側面)で、教職課程のあり方がどうあるべきかを押さえておく必要。
      • 入職後10年程度までは、広く職務を経験した後、専門性を活かせる分野に特化していく事が望ましいのではないか。
  • 特定職務型スタッフ・コースを申請しない理由
    • もう少し幅広く経験してから、固有の分野を極めていくのがいいのではないか。また、特定職務型スタッフという職種を作るなら、大学全体にてどの業務に専門性が担保されるのかを把握・調査しておく事が必要なのではないか。過去の経緯を把握した上での専門職が必要なのでは。

小野さんは教員免許業務の担当者で知らない人はいない、と思われるほどの有名人です。しかしながら、これまでのキャリアで財務部経理課にて資産運用業務なども担当されていたとは驚きでした。
個人的には、これまでの業務で学校教育法や大学設置基準などの法規に触れることが多かったため、行政との接点という点で必須の知識である法律・立法技術を学ぶことの重要性という点は興味深かったです。法学部又は法学研究科出身者という点では、「行政管理を担う大学職員」という専門性の開発もあると感じた次第です。(国家公務員に近い印象を持ちます)

基調報告及び話題提供に対するコメント 徳永寿老氏(公益財団法人大学コンソーシアム京都専務理事・事務局長)

  • 元々は大学職員であったが、現在は大学コンソーシアム京都の専務理事兼事務局長をしている。
    • 大学コンソーシアム京都では、加盟大学や自治体から出向で職員を受け入れている。高度な専門性を有する職員の雇用に関して、全員をパーマネントで雇えればいいが、人件費の支出に関しては経営面での考慮が必要。
    • 例えば国際交流関係ならば優秀な人材は多数集まる。有期雇用として対応していくことが必要と思われる部分を。
    • 菊池氏の問題提起、メンバーシップ型の維持に関してだが専門性に執着すると安定を得るのが難しい。自分自身は採用時に図書館に配属されたが、他大学職員との交流する中で、他大学の専門性が高い職員と自らを比較して、能力の違いに愕然とした気持ちになった。
    • 専門性は外注化し、職能基準・資格基準を定めていくことで、将来に不安の無い形での支援が必要。加えて経営的な努力も重要。
    • 大学コンソーシアム京都では能力体系を整備し、出向者が所属大学に戻ってからも活かせるような仕組みにしている。

大学コンソーシアム京都では、出向者を受け入れるという特殊な環境のもと、どのように職員の専門性を活かしながら能力開発を行っているかという点でのお話でした。あわせて、現在の経営環境では人件費支出が重くのしかかるという経営に直接コミットされている方ならではの悩みのような部分も垣間見えて興味深いと思いました。

全体討論(パネルディスカッション)
中元さんによる整理

  • ジョブとメンバーシップの違いは無視できない(菊池さん)
  • 専門性の捉え方、ミッション課題と繋がる形(天野さん)
  • 教職免許のみが専門性として確立せず、教務・大学全体の視点などを踏まえて専門性が必要なのではないか(小野さん)
  • 20代の前半、契約職員としての採用などに関して差は出ないと思うが、30代になってからは大きな違いが出てくる。専門性に関しては部署毎のアウトソースなどについて

【質疑応答】

  • アウトソーシングをすべきでない領域、今日のような議論は変化する環境にどう適用するか、大学の役割をどう果たすかという2つのレイヤーがある。サバイバルのための適応と大学の役割というものが無自覚に対応させてしまうような点がある。自分の境遇に照らして考えると、第3の職種が成立する事は良い事だと主張するが、この議論をどのようにセッティングしているかを聴きたい。(補足)高度に専門的な業務が存在するとして、例えば図書館業務が専門的であるとして、大学組織が内製で抱える方が大学の強みを担保するという点についてはどうか。
    • アウトソーシングを全面的に同意する訳ではないが、その反面、経営面からは必要性が高まっているのは事実である。図書館の例にあるように、専門性がはっきりしていて、機能的に定められているもの。全ての大学では出来ないということがある。専門職領域が確立していくと、外部人材の活用がやりやすくなるのではないか。大学の規模・設置者などによって状況は異なると思うが、必然的に選択されてきているのが、専門職に限らず一般職員においても現状だろうと思われる。
    • 全て専任職員で賄えればいいのだが現実的ではない。アウトソーシングする部署に属する経験は無いのだが、職員はどこまでを知っておくべきで、どこまでを任せるべきなのか、という点が明確になっていないといけない。そこはコスト面だけではなく、ジョブディスクリプションにも関係する。
    • 難しい問題だと思うが、アウトソーシングには大学のサバイバルと、どこに専任職員を配置するかという問題があるが、職員側から見ると問題だと思う例が多くある。アウトソーシングすべきでない領域は各大学によって優先順位が異なると思うが、図書館はアウトソーシングが進みすぎてしまっていて、専門性について深く考えたことはあるが、一般的に図書館の専門性として理解されなかった部分もある。
    • アウトソーシングの目的だが、経費削減に主眼が置かれている。これは受託する側にとっても必ずしも幸福ではない。よって、サービスの低下は免れない部分である。あとは社会の選択の問題であろう。例えば、高等教育の公財政支出をどの程度にするかなどの命題がある。その他、教育プログラムは絶対にアウトソースできないと思う。あとは研究についてもできないだろう。よって、現在の経営環境という視点を持たないと議論にならない。専門的な職員の処遇が低い理由については、メンバーシップ型雇用の維持を前提にしていることに留意しておく必要があるのではないか。
  • 現状のままではいけないと思う。そのギャップを埋めるためにアメリカにおいては非教員職が存在している。現在の日本の大学の現状に関し、ハイブリッド型の職員がもう少し高度化していけるような仕組みが必要だと思う。議論では事務職員か専門職かという二元的な議論になっているように感じるが、その点はどうか。
    • 民間企業でも、メンバーシップ型の人数を絞り、非正規雇用を増やすなど、雇用のあり方は変わってきている。また、ジョブローテーションについても、単純な年数による異動から一定程度の経験を積ませ、適性を判断してからキャリアパスを決めるようになってきている。これは他国の競合企業の同年代社員と比較すると、能力が低くなりがちだからである。大学職員においても同様のやり方を採用していく事は可能性があると思うが、体系的に編成された教育訓練を含んでいる事が必要だと思われる。これはコースワークに似ている。特にURAなどについては、自分で論文を書く経験を持たないとAdministratorではなくAssistantになってしまうのではないかと危惧する。アメリカは教員だけではなく職員もジョブ型であり、必要な能力の高低だけであり、能力感・能力評価あらゆるものが異なっている。民間企業から転職し、複数の大学を渡り歩いてきた経験からすると、大学職員は勉強しなさすぎだと言える。具体的には大学設置基準をろくに知らない職員も多い。民間企業の社員は大学職員と比較するとまだ勉強しているように感じる。
  • アドミッションオフィサーについての研究を科研費で行っているが、どういった人材が相応しいと思うかについてご意見を聴かせて欲しい。
    • 高大接続・高大連携についての業務を担当しており、教育委員会・高校との接続などをやっている。アメリカではアドミッションオフィサーが存在しているが、日本において同様に実施できるかどうかは非常に疑わしい。国立・公立・私立の全ての大学で網羅できるかどうかは疑問。比較的自由な学風を持つ大学においても、学部の自治・専門性などの難しい側面は出てくるだろう。本来はジョブローテーションでメンバーシップで育ってきた職員がやるべきだと思うが、大学改革が進展する中で、ジョブ型を使わないといけない。あわせて大学業界を一定程度知っている人で教務・学生支援・就職支援などを多面的に捉えている人がいればできると思うが、個人的には難しいのではないかと思われる。
  • 制度を変えても運用を併せて変えていかないといけないと思うが、経営者・人事部門とのいずれを先に改革していかなければならないと考えているか。
    • 経営者と人事部門の専門性は早急に高めないといけないが、ある意味において経営者の力量次第でどうとでもなるようになってしまう。人事についても専門性は重要であり、人事部門の担当者が3年ローテーションで回すようではとてもうまくいかないであろう。専門職が専門種として確立していない段階で起こるコンフリクト。例えばアメリカでは専門職団体があり、ジョブディスクリプションが確立している。
  • 今までのイメージ以上に9割の部分で活動されていることが驚きだったが、専門性を活かした活動によって、メンバーシップの社会の人たちとの温度差を感じることはあるか。
    • 今のところ特に温度差を感じていない。そのために自分がやるべきだと思っていることは、圧倒的なパフォーマンスで本務をこなす事だと考えている。勤務時間内で業務を完結させ、体のコンディションづくりなど、他者に文句を言わせないような仕事への取り組み方を示す事だと思う。本務をしっかりやっていれば言われない。

質疑応答においても、今後の大学職員の働き方に関する重要なポイントがいくつもあったと感じました。大学職員として働いている人々が、最も関心を持つ部分は恐らく「人事」ではないかと私は思っています。大学の人事制度の非効率性については、専門性を有している職員であっても、ジョブローテーションで全く異なる部署に異動になり、専門性が断絶するなどの話は枚挙に暇がありません。では、どのようにして専門性を持った人材を活用していくかという点についてですが、これは当日参加された方々のFacebook上での議論なども拝見したところ、単純に一大学のみで変えていけるものではなく、大学のみならず日本全体の雇用制度にも関わる話で、一概に現時点でのジョブ型への移行が正しいとは言えない部分もあるように思います。*8 *9
そこで、私からご紹介したい事例があります。特定非営利活動法人実務能力認定機構が公表している「大学マネジメント・業務スキル基準表」です。最近、「大学マネジメント・業務/基礎(知識・能力)編」も公表されました。*10事務局の所在地が早稲田大学にほど近い場所であること、役員に早稲田大学の関係者が多いことを見ると、設立当初から早稲田大学が深く関わっている団体のようです。


  • 背景
    • 近年、大学経営を取り巻く環境はますます厳しさを増し、社会のニーズに応えられる大学の運営が求められています。少子高齢化に伴う大学間競争の激化、教育・研究の高度化、グローバル化に伴う国際化への対応、大学生の就職率等々の課題に対処するために、大学経営における新しい役割を担う大学職員の育成が重要になっています。大学職員の育成・評価、個人の自己啓発の活性化、組織の活性化等を推進するための各種仕組みづくりと共に、その基本情報として大学運営業務に関する知識・スキルの体系化が必要となります。
    • ACPAでは、東京大学、法政大学、早稲田大学の人事部門および各種事務部門、また人材育成の経験豊富な企業研修部門のご協力いただき「大学マネジメント・業務基準表検討ワーキング会議」を設置して大学職員業務の体系化作業を進めてまいりました。
    • 職員一人ひとりがもっている大学運営に必要なスキルの把握と育成、また個々人の能力や経験を大学運営に活かす人事政策の基本情報として、大学運営業務全体を網羅した大学マネージメント・業務スキル基準表を、各大学の組織力強化、人材育成のツールとして大学関係者にご活用いただきたいと考えております。
  • 基準表の活用状況(2015年9月現在)

まだ導入大学は少ないようですが、大学間で情報共有した上でのジョブディスクリプション整備という点で、日本国内では先行している事例ではないかと思います。大学の業務に関しても一定の標準化が進みつつあることを鑑みれば、ジョブディスクリプションの整備と併せて、ジョブ型雇用のあり方、職員の専門性についての議論が進むのではないかと思っています。とは言え、組織が職員をどう働かせたいか?ということを突き詰めないと高度専門職の活用は絵に描いた餅に終わってしまいます。
他の大学職員ブロガーによる論考が大いに参考になると思いますが、*11 *12 *13 *14私なりに考えると、職員の専門性と雇用のあり方を継続して議論していくことの必要性を感じます。今回のフォーラムで得られた示唆をもとに、継続して自分自身の専門性の開発と、大学における高度専門職のあり方に関する議論を注視していきたいと思います。

【2016/01/31追記】
当日の様子を空手家図書館員として著名なブロガーさんがまとめておられます。*15当ブログと併せてご覧いただくと、より内容が分かりやすくなると思いますので、是非ご覧下さい。

*1:http://www.jil.go.jp/profile/khama.html

*2:"特定の職務について技能を有する者を必要のつど募集、採用するという本来のあり方は影を潜め、企業の命令に従ってどんな仕事でもこなせる潜在能力を有する若者を在学中に選考し、学校卒業時点で一括して採用するという、諸外国に例を見ない特殊な慣行が一般化した"「ジョブ型正社員」と日本型雇用システム http://www.nippon.com/ja/currents/d00088/

*3:「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて(1)−文科省が制度化を急ぐ理由?− http://ycu-union.blogspot.jp/2014/12/blog-post.html

*4:「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて(2)−「高度専門職」か「専門職」か− http://ycu-union.blogspot.jp/2014/12/blog-post_25.html

*5:「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて(3)−「高度専門職」から「専門的職員」への変更とメンバーシップ型雇用における「専門性」− http://ycu-union.blogspot.jp/2015/02/blog-post.html

*6:LEAPプログラム参加の大学職員による研修報告を聞いてきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120730

*7:小野さんのブログで補足説明をしていただきました。ありがとうございます。「大学職員における高度専門職の議論をめぐって」http://blog.livedoor.jp/masashi_ono/archives/1050350584.html

*8:例えば、アメリカでIRerとして活躍されている柳浦猛さんは、アメリカでも中級レベルのIR人材を確保する場合でも、「高等教育内外から広く人材を集められる人事制度が不可欠」「任期付きの採用では人は集まりづらい」「給与システムの見直し」などを指摘しています。 http://goo.gl/U5jPwR

*9:大和総研経済調査部・主任研究員溝端幹雄「大学教育の質が高まらない理由」 http://www.dir.co.jp/library/column/20160112_010512.html

*10:大学マネジメント・業務/基礎(知識・能力)編 http://www.acpa.jp/kijun/management2.php

*11:高度専門職の検討に思う〜いったい何が良くなるのか〜 http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2014/12/17/230911

*12:高度専門職の能力水準に思う〜スペシャリストはどのように働くのか〜 http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2014/12/18/203232

*13:専門的職員とはこういうことか http://dai-staff.hatenablog.com/entry/2016/01/12/225924

*14:大学規模に応じたハイブリッドな専門的職員は必要か http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2015/12/24/120000

*15:大学図書館員の専門性って何やろね・・・?(高等教育研究会の大学職員フォーラムに参加して) http://karatekalibrarian.blogspot.jp/2016/01/blog-post_30.html

「東京大学大学院大学経営・政策フォーラム」に参加してきました

high190です。
10月17日(土)に東京大学本郷キャンパスで開催された標記フォーラムに参加しました。今年の3月に大学経営・政策コース*1の設立10周年記念シンポジウムに参加しまして、*2その際の議論が非常に興味深かったので、ホームカミングデイという若干場違い感がある中でお邪魔してきました。今回も内容について、簡単に所感をまとめてみましたが、理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。


修了生コーストークセッション:修了後のキャリアと大学経営・政策コースでの学び
大学経営・政策コースでの学びとコース修了後の活動とのレリバンス、今後のコースに期待する教育内容について、コース修了生とコース現役教員によるトークセッション。

当日はコース修了生の方がパネリストとして4名登壇され、コメンテーターとして大学経営・政策コースの福留東土准教授*3が出席されていました。パネリストの皆さんは、氏名・所属が事前告知などで非公表でしたので、本ブログでも匿名にて取り扱いたいと思います。簡単に触れますと現職の大学職員が2名、大学職員から大学教員に転職された方が1名、企業勤務の方が1名です。司会進行もコース修了生の方が担当されていました。

トークセッション・テーマ1〜大学経営・政策コースの教育プログラムについて〜

  • 修了生調査の結果と論点整理
  • 【コースワーク】
    • 大学経営・政策コースでは、多種多様な科目が開講されているが、科目によって満足度に段差がある。講義内容によって修了生の「学習の満足度」「職場等での有用度」に程度の差がある。
  • 修士論文
    • 修士論文を修了生は重視する傾向が高い。ただ、その反面、有用度はあまり評価されていない。この点を明らかにできれば。教育目的と手段が合致しているかを議論したい。
    • コースに入って驚いたのは「大学の歴史」を学んだことだった。そもそも、実践的なことを重視するのだと思っていた。また、統計学も学んだ。数字を扱う事には苦手感があったが、大いに役立った。その他の印象深い授業では外部講師から高等教育の最前線の情報を得る事ができ、理論と実践の両方を学ぶことができた。正直なところ「学びたい」気持ちより「入学したい」という思いが強く、カリキュラムを見ずに入学したぐらいだった。修士論文は辛かったが、集大成として書き上げた。
    • 自分は大学職員ではなく企業勤務なので、入学の動機は異なる。企業人の目線で、ある地方の大学を訪れたとき「何故、こんなところに大学を作るのか」「そもそも学生は来るのか」など、素朴な疑問を感じた。大学の現場を回るうちに、大学を作る際には様々な政治的意図が組み合わさっていることが分かり、本コースに入学することで分かる事ができるようになるのでと思った。
    • 元々、東海地区の私立大学で働き、その後に関東地区の私立大学で職員として働いたが、最初の大学では学部等の設置認可申請業務を担当した。*4 *5 *6 *7その際、「設置の趣旨」を書いたが、学内の教員にかなりコテンパンにされた。そういう部分に対する反骨精神もあって入学を決意した。ただ、入学後には修論テーマでコテンパン(先行研究がない、研究する意味が無いなど)にされたが、そのことを通じて自らの研究能力の無さに気がついた。
    • 大学職員になる前は民間企業で働いて、その後に母校に戻って職員になった。教務部で働いたが、知識の足りなさを感じるとともに職場の先輩が本コースに通っていることを知ったので、まずは科目等履修生として1年間学んだ。入学してからは様々な背景の学生が集まって、他流試合を行うような形だった。テーマを与えられ、グループワークなどを行って、圧倒的な知識量の差に気づき、もっと学びたいと感じるようになった。私立大学に勤めているので、私立大学が今日に至るまでの経緯等を知る事が役立った。
  • 【質疑応答】
    • 教員・同僚に対して、という入学動機があったが、学生に対しては何か意識が変わったか。
      • 学部時代は卒業までに至る事が一番大事だった。しかし、社会人になって「何故学ぶのか」「何のために学ぶのか」ということを改めて自分自身が感じて、学生と接する際に「学ぶことの意味」を端的に説明できるようになった。
      • 管理系の仕事が主だったので、学生との関わりが少ない仕事だったこともあって、あまり変わらなかった。
      • 学生と窓口で対応すると「声の大きい」学生だけの意見を取り上げていいのかという疑問が生じた。研究テーマは「学習成果分析」だったが、勤務先は学生数が多いので、個々の学生と話すのではなく総体として見ていくことが大切であると思っている。その際に教学データなどとの統合等を行い、分析することが大切である事に気がつくようになった。
  • 【福留先生コメント】
    • コース長の山本先生が必ず説明会で言うのは「うちのコースは専門職大学院ではありません」という意見。修士論文を必ず求めているのは、そのような背景がある。登壇されている修了者は金子元久先生*8時代の修了生だが、現在、自分が授業する前にも「この授業は必ずしも実務に役立つ訳ではない」ということを伝えてから授業をすることが多い。しかしながら、例えば自分が担当する大学の国際比較では、他国の大学は制度面でも教育内容も大きく異なる中で、その知識を得る事によって自らの中で「大学のイメージの転換」を行う事ができることに繋がる。
    • 修士論文については大きく2つの観点から重要。大学について自分の手で知識を作り出す、自分の関心を具体化することを取り組んで「形にする」ことが大切である。知識を吸収するだけではなく、自分の中での体系化ができる。大学の目的は教育と研究である。そのプロセスがどのように行われているかを職員自身が知る事ができる。学術が出来上がる過程を知る事の重要性。
    • また、修了生調査に「他大学や官庁でのインターンを取り入れるべき」という意見もあるので、実践的なプロジェクトなどを今後取り入れていくことも考えられる。実際には在職者が入学してくることを想定しているが、ストレートマスターに対応するプログラムも考えられる。専任教員がカバーできない実践性を伝える講義については、知見と実践を兼ね備えた実務家教員を外部講師として招聘する事で対応している。実務と理論をどのように架橋していくかが重要だと思う。
  • 修士論文についてのパネリストからの補足】
    • 元々、理工学部図書館で仕事をしていた。情報を提供する立場としてはできていたが、自ら研究することによってさらに質の高い情報を提供できるようになったと感じた。例えばアメリカの大学での図書館司書は、図書館情報学と自らの専門分野とで学位を保有している。先ほども話のあった「学術」という点について、そのために支援することをどうするのか、という点で大いに役立った。修士論文の執筆は大変だが、これは決して体育会のしごきのように『自分もキツかったんだら、後輩にも同じ苦しみを味わわせる』というものではなく、知的生産の仕組みを知り、学術のクオリティーを保つために不可欠なのだと知った。
    • 休日に修士論文に没頭するという学生ならではの経験ができることは、修士論文を各意義ではないか。修士論文はバラバラの要素を組み合わせて作り上げる「自分の宇宙」である。今残念に感じるのは、多忙だったので先行研究のレビューができなかったのが悔やまれる。
    • 修士論文は、現在の教員としての仕事には役立ったが、当時の職員としての業務には寄与しなかった。ある意味で修士論文を書き上げることは「ファカルティ同質性の向上」である。大学を構成する教員と職員の同質性を高める事で、教職協働を深化させることができるのではないか。
    • 入学する段階、論文を書いている段階では「何故書かなければならないのか?」と思っていた。1年時は講義科目が中心で新しい知識を得るが、論文は限定的な領域で掘り下げていくことが必要。掘り下げる事は苦痛ではあったが、書き終わってみると書いている知識そのものが有用ということもあるが、形にすることを通じて得られる複合的な知識が得られること、先行研究にあたってみて検証すること、検証過程をまとめる技術、説明する技術はこれからの仕事にも役立つ有用な経験だと感じた。

トークセッション・テーマ2〜コースでの学びと修了後のキャリアについて〜

  • この中では修了後に職を変えた方は1名だが、昇進・昇格以外にもどのようにキャリアの影響があったかを討議する。
  • 【コースでの学びと修了後のキャリアについて】
    • 修了後も同じ職場・同じ部署なので変わってはいないが、教学IRを担当する事になった。そのきっかけは、修士論文を書き上げる際に教学担当副学長に依頼して教学データを活用させてもらい、最終的に論文を書き上げた。その過程で副学長と議論する機会を得て、研究内容を延長するような形で教学IRを担当するようになった。
    • 修了当時は関東地区の私立大学総務部に在籍していたが、昇進試験を受けたこともあって係長に昇進した。しかし、あまり給与面では変わらなかった。シグナリング効果もあると思い、当時の職場でIR室を作る際に大学院で得た知識・経験が活かされ、その経験を活かして現在の職を得ることに繋がった。これからの大学では高度専門職の働く枠が増える、増えていって欲しいと思っている。
    • 大学院を修了したことで勤務先企業の会議で話が通りやすくなった。高等教育を学ぶことによって、外部の人間も認めてくれるようになった。自分自身が女性なので「仕事を続ける」シグナルを発する事にも繋がった。
    • 適当な論文を書かせない、という役割を図書館司書に拡大したい。単に情報を提供するだけの存在からの転換が必要。修士論文の内容をベースに「IDE-現代の高等教育」*9に投稿し、日本高等教育学会での学会発表などを経験した。発表すると反響が返ってきて次のステップに繋がっていく。発表などを繰り返していくことで、徐々に研究歴が増えていく事になり、縁があって他大学で非常勤講師を担当することになった。このような積み重ねを繰り返す事で業務のステップアップとともに、学び続ける事で自分ができること、やりたいことをできるようになっていく。
  • 【質疑応答】
    • 素朴な疑問だが、大学院進学を職場にはどの程度オープンにしていたか?
      • 出願要項を見ると分かるが、通学には上司の承諾が必要で「学業に専念させる事」という一文が入っている。変な話、仕事をしながら研究を並行して行うので大変だが、職場の理解を得られるようにしていた。どうしても講義に出られない時は同級生にノートを貸してもらう、追試験を組んでもらうなどの対応をしていた。自費で通学したが「大学の金で行った」とか「仕事に穴をあけた」と言われないように気をつけた。
      • 大学を顧客とする企業勤務のため、反対されるだろうと思っていたが、その通りに反対されていた。(企業は売り上げを上げてなんぼ、の考え方)大学経営・政策という学問分野に対しての理解がなかったのである。上司の上司までに話を持っていくことで承諾してもらえた。
      • 職場には受験する際には言わず、合格してから承諾を得にいった。上司も了解してくれたが、当時、管理部門である総務部だったので、時間的な余裕があったことも大きかった。
      • 職場に通学している先輩がいたので、職場側の理解はすぐに得られた。ただ、仕事をしながら通学するので、仕事に穴をあけないように気をつけ、体調的にも大変だったが、得るものは大きかった。大学院は図書館を使えるので、非常に学びに繋がる環境に身を置く事が出来る。

総括

  • 【福留先生コメント】
    • 修了後のキャリアは教員にとっても重要なテーマだが、コースを修了して転職するということはあまり一般的ではない。日本の大学の慣習などに依存しているから。修了生がコースで学んだ成果としては、外形的な評価ではなく内面での力量が高まるということが重要である。コースで学ぶ2年間は非常に重要なものだが、それだけで終わるものではない。修士論文で取り組んだテーマを継続して発展させることが大切なので、その点を修了生に期待したい。あわせて、学んだ内容を職場に還元していくことも重要。
    • なお、転職・キャリアアップは一般的ではないとは言ったが、実際に転職する人も入れば学内でキャリアアップしている例もある。日本の大学でも教員と職員の間で働く専門職・戦略的なスタッフとして、自律的な仕事ができる役割が増えてきている。IR、URA、国際交流コーディネーターなどの職種。こういった仕事を想定しながら学ぶことも大事。
    • 特定の戦略的ポジションに関わるための科目をカリキュラムに組み込んでいくことも始めており、IRは大学評価・学位授与機構の森利枝准教授*10に依頼している。また、当コースに欠けているのは学生関係のプログラムであり、アメリカでは専門のサーティフィケートも存在している。*11職員としての実務経験が働くことに役立つ、高等教育の大学教員に関するキャリアも変わってくるかも知れない。アメリカではフルタイムで働く人がマスター、Ph.Dを取得してキャリアアップしていくルートがある。そういう意味での研究者養成などにも繋がるのではないか。
  • 【パネリストからのコメント】
    • 一番の財産だと思っているのは、勤務先の職位・年齢に関わり無く、修了者間のネットワークができていることである。これは目には見えない財産だが、自身は先行研究調査などの講義をボランティアで行っている。よって後輩とも繋がっている。また、教員との繋がりに関しても大きい。例えば学会発表に関して教員と一緒にリハーサルを行ったり、論文投稿の前に簡単に査読して下さったりなど、修了後にも「一人の弟子」として扱ってもらえていることは大きな財産である。
    • 所属企業ではリサーチも請け負っているが、修了生調査の回収率が70%以上なのは凄いと思う。通常の卒業生調査では25%程度。帰属意識の強さを感じる。
    • 今後に進学を考えている人に伝えたいことは、先ほど福留先生がおっしゃっていた学生関係の研究領域が抜けている点について、先日ペンシルベニア州立大学に行った際、学生支援アドバイザーという仕事がある事を初めて知った。またこれから大学入試も大きく変わるので、入試に関わるプロフェッショナルなども目指して欲しい。
    • たまたま自分が入学した期は男性だけだった事もあって、学内だけに留まらず、プライベートでも人的な繋がりが出来たことは非常に大きい。人脈形成という面では大きなメリットがある。また、修了生でも夏の海外研修プログラムに参加できる、修了後にも勉強会で発表できるなど、修了生に対する支援体制も非常に充実していることは、特筆して良い部分ではないかと思う。
    • コースワークと満足度のねじれが分かったのが調査結果だったが、各登壇者はそれぞれが解決しているように見えた。そのための政策立案能力の形成が必要であるということが分かったかと思う。修士論文を重視する理由はここにある。これから大学設置基準の改正などでますます職員の役割の重要度が増してくる事は間違いが無い。そのためにも当コースでの学びを活用して欲しい。

総括のコメントを聞いていて、どこかで同じようなコメントを読んだことがあるように感じたので調べてみたのですが、一橋大学米倉誠一郎教授がハーバード大学に留学していた際の思い出を書かれた記事を読んだ際、目にした内容と似ていたので以下に引用します。


話は逸れるが、僕はアメリカのPhDやMBAで学ぶ知識はそれほどたいしたものではないと思っている。ただ、これらの学位に意味があるとするならば、「あれだけ辛いことを出来たのだから、自分に出来ないものはない」と思わせる限界努力関数の証明と、「同じ釜の飯を食った仲間」の存在だと思う。だから、今でも大学院時代は楽しかったと思い出せるが、「もう一度やる?」と聞かれれば、即答で「ノー」。

登壇された修了生の方々からのお話を聞いていて、私が一番強く感じたことは「学んだことをどのように活かすかを今でも模索し続けている」という点です。学位を授与する大学は学位の質保証を行わねばなりませんが、学位を得るということは、その人自身の能力に関して一定の質保証がなされていると世の中的には捉えられると思います。もっと具体的に述べるとすれば、大学院を出ているだけの高度な能力を示すことができなければいけないということです。今回登壇された4名は非常に優秀な方々だと感じましたが、学び続ける姿勢を持って活動されている姿に感銘を覚えました。行って終わり、ではなく研究を続けるということは大切ですね。ブログも同じだと思っているので、書き続けることの大切さを改めて認識させられました。また、修士論文の執筆については皆さんが苦労を述べられていたところに注目しました。上記の米倉先生の記事にも「限界努力関数の証明」という言葉が出てきますが、やり遂げるというプロセスを通じて自分自身の成長を実感できることが、論文を書くことの意義のひとつなのかなと。
私自身は大学院で学んだことはないですが、通いたいという気持ちは持ち続けてきました。しかし、自分が追求したいと思う研究テーマを決められるまでは、大学院に進学するのではなくサーティフィケート・プログラム*12 *13を受講したり、科目等履修生として学ぶ程度でもよいのではないかと考えています。また、私は天邪鬼なので違った観点から大学経営・高等教育にアプローチしてみたいという思いもあります。いずれにしても、自分自身の中で大学院進学というものを再度考え、整理しようというモチベーションをいただいた素晴らしいトークセッションでした。今後も同種のイベントなどがあれば参加してみたいと思います。

*1:東京大学大学院教育学研究科 総合教育科学専攻 大学経営・政策コース http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/

*2:東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コース設立10周年記念シンポジウム「大学経営・政策人材と大学院教育」に参加してきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20150403

*3:スタッフ紹介「福留東土准教授」 http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/faculty/cat221/

*4:私も設置関係業務を担当したことがあります。提出書類の作成の手引き、事務担当者説明会資料、大学設置室のWebサイトなどを参照するとイメージしやすいかと思います。

*5:大学の設置等に係る提出書類の作成の手引き http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/tebiki.htm

*6:大学設置等に関する事務担当者説明会 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/1289295.htm

*7:文部科学省高等教育局高等教育企画課大学設置室 http://www.dsecchi.mext.go.jp/

*8:現在は筑波大学大学研究センターにいらっしゃいます。 金子元久特命教授 http://www.rcus.tsukuba.ac.jp/center/staff/staff_kaneko.html

*9:IDE大学協会の出版物 http://ide-web.net/newpublication/blog.cgi?category=001

*10:森利枝准教授 http://www.niad.ac.jp/n_kikou/soshiki/kyouin/kenkyu/1178258_1891.html

*11:ちょっと探してみましたが、カナダのトレント大学に類似のプログラムがあるようです "Student Support Certificate" https://trentu.ca/studentaffairs/certificate.php

*12:筑波大学・Rcus大学マネジメント人材養成プログラム http://www.rcus.tsukuba.ac.jp/program/index.html

*13:東北大学アカデミック・リーダー育成プログラム http://www.ihe.tohoku.ac.jp/CPD/lad/program_2015.html

Times Higher Educationの世界大学ランキング2015-2016が発表されました

high190です。
毎年恒例のTimes Higher Educationの世界大学ランキングが公表されました。「スーパーグローバル大学」など、日本の大学はどのような順位になっているでしょうか。過年度の結果はこちらからご覧いただけます。*1 *2 *3 *4


タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(Times Higher Education、THE)は9月30日(現地時間)、2015年の世界大学ランキングを発表した。1位は5年連続となるカリフォルニア工科大学だった。東京大学は2014年の23位から大きく順位を落とし43位、京都大学は2014年59位からさらに順位を落とし88位となった。
THEによる世界大学ランキングは、英国QSやサウジアラビアCWURによる世界大学ランキング、上海交通大学の研究センターによる「世界大学学術ランキング(ARWU)」とともにに世界で注目を集める世界大学ランキング。評価基準は、「教育」「研究」「論文被引用数」「産業界からの収入」「国際性」の5つ。世界の大学のうち、800大学をランキングで発表した。
トップ10には、2014年同様に英国または米国の大学が多数ランクイン。結果、1位は5年連続のカリフォルニア工科大学で、2位にオックスフォード大学、3位にスタンフォード大学が続いた。2014年に2位を獲得したハーバード大学は、6位に順位を落とした。英国と米国以外では、スイスのチューリッヒ工科大学(ETHチューリッヒ)が2014年13位から順位を上げ、9位にランクインした。
文科省が2014年9月26日に「スーパーグローバル大学(SGU)」を採択して以来、世界大学ランキングトップ100入りを目指す「トップ型(タイプA)」13校のランキング結果が注目を集めてきた。タイプA13校のうち、トップ100にランクインしたのは東京大学(43位)と京都大学(88位)の2校のみ。そのほか、201位から250位に東北大学、201位から250位に東京工業大学、251位から300位に大阪大学が続いた。私立大学では、慶應義塾大学が501位から600位、601位から800位に早稲田大学が入った。
国内の大学にとって、THE世界大学ランキングの評価基準で高評価を得るには「国際性」の基準で評価されることが最重要課題となる。東京大学は2012年に27.6、2013年に29.6、2014年に32.4と徐々に得点を上げてきていた。しかし、2015年の本ランキングでは30.3と、2014年と比較して2.1ダウン。文科省のスーパーグローバル大学として期待を背負っていただけに、ネット上では2015年の結果を残念がる声があがっている。なお、京都大学も、東京大学同様に「国際性」評価は2014年29.0から26.1に下がった。
2015年の主要な世界大学ランキングがすべて出揃った。今後のスーパーグローバル大学の取り組みには、更なる期待が集まるだろう。

◆THE 世界大学ランキング トップ10

◆ランクインした国内の大学(掲載順)

日本国内では東京大学が首位にランクされていますが、2010年には香港大学にアジアトップの座を奪われ、翌年にはアジア圏での首位に返り咲いて数年間トップを維持してきました。しかし、今回は26位のシンガポール国立大学、42位の北京大学に次ぐアジア3位という結果に終わりました。*52013年の安倍首相による「日本アカデメイア」スピーチでは「今後10年で、世界大学ランキングトップ100に10校ランクインを目指します」との宣言がありましたが、今年のランキングでは東京大学京都大学の2校のみが100位以内にランクインしたという事実、苅谷剛彦オックスフォード大学教授によるスーパーグローバル大学への批判など、*6大学ランキングから見ると、日本の大学のプレゼンスは上がっていないという厳しい現実を突きつけられた結果ではないかと思います。また、昨今の大学改革の影響(競争的資金の活用、国立大学法人の運営交付金の削減など)によって、研究者が研究に避ける時間が削減したことにより、論文数の減少が著しいとの指摘もあります。*7 *8 *9
そこで、代表的な大学として東京大学のランキング構成数値の推移を見てみることにしました。使用したのは2010年から2015年までの6年分のデータです。(うち、Industry Incomeは2010年分はデータが無いので0になっています)

よく問題になるInternational Outlookですが、徐々にではありますが改善している様子が分かります。反面、論文引用数を示すCitationsが今年大幅に下がっていること、研究力を示すResearchが2012年から下がり続けていることが分かります。Citationsが今年下がったことについては、昨年度までトムソンロイターのWeb of Scienceを使用していたのを、今年からエルゼビアのScopusに変更したことによるのではないかと推察します。*10この辺りはあまり詳しくないので、電子ジャーナルなどの専門家の方による解説を待ちたいところです。こちらの解説だと分かりやすいかな?*11ただ、研究力を示す指標が下がり続けていることは、先に記述した論文数の低下とも関係があるので、今後の我が国の科学技術政策を考える際の視点として、目を配っておかなくてはならないように感じます。
その他、昨年度までは500位までの大学を公表していたのですが、今年からは800大学まで対象が広がったようです。私立大学でも慶應義塾大学順天堂大学近畿大学昭和大学上智大学東海大学東京理科大学早稲田大学がランクインしました。こちらも来年度以降にどうなっているかを注目していきたいと思います。

結果の英語版は以下からご覧いただけます。

*1:Times Higher Educationの世界大学ランキング2014-2015が発表されました http://d.hatena.ne.jp/high190/20141003

*2:Times Higher Educationの世界大学ランキング2013-2014が発表されました http://d.hatena.ne.jp/high190/20131003

*3:Times Higher Educationの世界大学ランキング2013-2014が発表されました http://d.hatena.ne.jp/high190/20121005

*4:Times Higher Educationが2010年の世界大学ランキングを発表 http://d.hatena.ne.jp/high190/20100917

*5:世界大学ランキング 東大 アジア首位から転落 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151001/k10010254801000.html

*6:スーパーグローバル大「外国人教員等」 実態は経験浅い日本人 http://www.nikkei.com/article/DGKKZO92094740V20C15A9CK8000/

*7:これはやばすぎる:日本の工学系論文数はすでに人口5千万の韓国に追い越されていた!!(ある医療系大学長のつぼやき) http://blog.goo.ne.jp/toyodang/e/66fda06802e29f013e26f5d41f769b01

*8:いったい日本の論文数の国際ランキングはどこまで下がるのか!!(ある医療系大学長のつぼやき) http://blog.goo.ne.jp/toyodang/e/2b1307b461f2ed4d9c5bb8d13e31ae89

*9:運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究〜国際学術論文データベースによる論文数分析を中心として〜 http://www.janu.jp/report/files/2014-seisakukenkyujo-uneihi-all.pdf

*10:World University Rankings 2015-2016 methodology https://www.timeshighereducation.com/news/ranking-methodology-2016

*11:ScopusとWeb of Science:引用データベース収録ジャーナルの選定基準について(室蘭工業大学附属図書館・学術情報最前線) http://www.lib.muroran-it.ac.jp/gakujo-saizensen/news.html#news13